12月7日

 

 

 

写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, H. Dannerbauer.

ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡が捉えた、クモの巣原始銀河団の姿。小さい白い丸で囲われた場所に、今回新たに発見された銀河がある。数字が振られているものは下にその詳細な姿が写し出されており、渦巻銀河など様々な銀河の姿が写し出されている。写真真ん中の大きな白い丸で囲われた領域は、重力的に束縛されている領域である。

 

 Jose M. Pérez-Martínez氏(ラ・ラグーナ大学・スペイン)を中心とする研究グループは4日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置(NIRCam)によってクモの巣原始銀河団の観測を行った結果、多くの新しい銀河を発見することに成功したと発表した(写真1)。これらの新しい銀河の特徴を調べると、クモの巣原始銀河団の密度の高い領域における銀河間の重力相互作用が、星形成にこれまで考えられていたよりもあまり寄与しておらず、銀河の中のガスの集結が星形成に寄与することが判明したとしている。

 

 クモの巣原始銀河団は、100億年以上前の宇宙初期にできた少なくとも100個以上の銀河から成る原始銀河団として、多くの研究がなされている。天文学者たちは、クモの巣銀河団がどのようにして形成されたのかを理解するために、クモの巣銀河団がどれだけ密度が高いかや、物理的な特徴を明らかにすることを目指している。

 

 今回研究チームはクモの巣原始銀河団の特徴を捉えるべく、JWSTに搭載された近赤外線観測装置・NIRCamを用いて観測を行った。近赤外線は可視光に比べて、宇宙にある塵をすり抜けるため、近赤外線観測を行うことで、原始銀河団の特徴を良く捉えることが可能である。観測の結果、写真1のように新しい銀河を含むクモの巣原始銀河団の詳細な写真を撮影することに成功した。Jose M. Pérez-Martínez氏は「今回宇宙の中でも大きな構造を持つクモの巣原始銀河団の姿を捉えることに成功した。これまでに局所銀河群という天の川銀河を含む銀河団の特徴はよくわかっていたが、これらの銀河群は発達しきっており、活発な銀河形成活動は行われていない。今回の写真の撮影によって、局所銀河群の若い時の様子を写し出しているクモの巣原始銀河団の詳細な様子が写し出され、多くの物理的特徴の情報をもたらしてくれる」とコメントしている。

 

 また今回の観測で研究チームは水素ガスの分布を捉えることで、クモの巣原始銀河団に存在する多くの銀河の存在を明らかにすることに成功した。早稲田大学のRhythm Shimakawa氏は、「今回の観測でこれまでに発見されなかった多くの銀河を発見することができると考えていたが、予想よりも多くの銀河を捉えることができた。またこれまでに知られていた銀河も予想以上に塵に覆われることなくしっかりと捉えることができたことに驚いている」とコメントしている。

 

 さらにHelmut Dannerbauer氏(IAC・スペイン)は、「クモの巣原始銀河団に存在する銀河の中の星形成は、銀河相互作用や合併によって行われたわけではなく、異なる場所にあるガスの集結によって行われたことが示唆される」とコメントしている。

 

 今後研究チームは、JWSTの分光観測によってクモの巣原始銀河団の詳細な特徴を捉えることを目標としている。

 

 

写真2 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, H. Dannerbauer.

JWSTが捉えたクモの巣原始銀河団の姿(写真1で注釈のないもの)。