12月21日

 

 

 

写真1 ( C ) ESO/F. Peißker et al., S.Guisard.

ESOのVLT望遠鏡によって撮影された超巨大ブラックホール・いて座Aスター(Sgr A*)まわりの連星系「D9」の姿。背景は天の川銀河。切り抜かれた写真の中にD9が写っており、赤い光は水素ガスからの光を示している。D9は連星系として2つの星として認識できないが、D9の中で我々の方向に向かっていく速度成分と、遠ざかる速度成分があることが認識され、連星系であることがわかった。いて座Aスターまわりで連星系が発見されたのは、今回が初めてである。

 

  Florian Peißker氏(ドイツ・ケルン大学)を中心とする国際研究チームは21日、ESOのVLT望遠鏡を用いた観測により、天の川銀河中心にある超巨大ブラックホール・いて座Aスターまわりの連星系を初めて発見することに成功したと発表した(写真1)。この連星系は「D9」と名付けられ、年齢は270万年と比較的若い年齢であるとしている。D9はいずれいて座Aスターの強大な重力によって、およそ100万年で2つの星が1つの星に合体することが予測されるとしている。今回の発見は、ブラックホール周りの連星系が、ブラックホールからの強大な重力がかかる環境でどのようにして生き残るのかを解明したり、ブラックホール周りの惑星の発見につながる重要な研究成果であるとしている。

 

 連星系は2つの天体がお互いの共通重心をまわる系のことをいい、宇宙において一般的に存在する天体である。しかしブラックホール周りの連星系は、ブラックホールの強大な重力によって連星系を成すのが難しいと考えられており、これまでは実際に見つかっていなかった。

 

 今回研究チームは、いて座Aスター周りの星が密集したSクラスターと呼ばれる領域におけるESOのVLT望遠鏡の観測データを解析することとした。Sクラスターの中にある星のような動きをするガス雲や塵がいくつか存在し、それらはGオブジェクトと呼ばれていた。これらのGオブジェクトの中から、いて座Aスター周りの連星系を発見することに成功した。今回の発見は超巨大ブラックホールまわりの強大な重力がかかる環境においても、連星系が少しの期間ではあるものの、生き残ることができることを示した。 Florian Peißker氏は「ブラックホールは私達が思っていたよりも破壊的なものではなかった。」とコメントしている。発見された伴星は「D9」と名付けられ、D9まわりにガスや塵の存在が確かめられ、比較的年齢が若いことが証明された。その年齢はおよそ270万年であり、今後100万年かけてブラックホールの強大な重力によって1つの星になることが予測されるとしている。

 

 研究チームはVLT望遠鏡に搭載されたERIS(画像化・分光計)とSINFONI(近赤外線による分光計)と呼ばれる観測装置で得られたデータ解析を行った結果、D9内の速度成分にいくつかの繰り返されるパターンがあることが判明し、我々に向かってくる速度成分と、遠ざかる成分が混在していることから、実際にはD9が2つの星から成る連星系を成していることが判明した。これらの成果を得られるまでに15年をかけて解析が行われ、Sクラスターの中で初めて発見された連星系ということにもなる。

 

 今回の研究成果はSクラスターの中にあるGクラスターの謎を解き明かすことにも貢献した。Gクラスターの中で実際にはいくつかの連星系ができあがっており、残りの物質は既に合体した星の成分である可能性が高いとしている。しかしいて座Aスター周りの強大な重力がかかる環境に存在する天体には、多くの謎がまだ残されている。VLTに搭載された電波干渉計GRAVITY+とチリに建設中のELT望遠鏡がその謎を解き明かすことが期待されるとしている。また Florian Peißker氏は太陽系外惑星系などの若い星周りでいくつかの惑星が発見されていることに触れて、「今回発見されたD9のような若い連星系まわりで惑星が発見されるかもしれない。銀河中心で惑星が発見されるのは時間の問題であるということは妥当なことだ。」と結論付けている。