12月29日
写真1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, O. C. Jones (UK ATC), G. De Marchi (ESTEC), M. Meixner (USRA).
JWSTが捉えた小マゼラン雲内にある星団・NGC 346の姿。黄色の丸は今回観測対象となった星の位置を示している。
図1 ( C ) NASA, ESA, CSA, J. Olmsted (STScI).
写真1の黄色い丸で囲われた星を、JWSTの分光観測装置で解析した図。上下2つのグラフに分かれているが、上のマゼンタ色のグラフは星からずれた場所の光であり、下の黄色いグラフは星とその周りにある光が組み合わさったもの。右にこれらのグラフを重ね合わせたグラフが示されている。右のグラフから星周りに冷たい水素分子と、温かい水素原子が星周りに存在することがわかり、このことは星周りに原始惑星系円盤があることを示している。
Guido De Marchi(ヨーロッパ宇宙研究所・オランダ)氏を中心とする研究グループは16日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)に搭載された近赤外線分光観測装置(NIRSpec)を用いた観測により、天の川の近傍銀河で矮小銀河である・小マゼラン雲に存在する巨大星団・NGC 346を観測した結果、10個の星において、木星よりも大きな巨大惑星を形成しうる原始惑星系円盤を発見したと発表した(写真1、図1)。このことは初期宇宙の重元素量の少ない環境下においても、巨大惑星が十分形成しうることを示唆しており、現在の理論モデルの再考が迫られるとしている。
初期宇宙では、星はその大部分が水素とヘリウムから成り立っており、惑星の材料となる炭素や鉄などの重元素は極めて少なく、重元素があったとしてもそれは超新星由来のものであると考えられている。恒星周りの惑星の起源となる円盤は原始惑星系円盤と呼ばれるが、現在の理論モデルでは、原始惑星系円盤内の重元素量が少なければ、原始惑星系円盤が長生きせず、大きな惑星ができることはないと考えられていた。しかし2003年、ハッブル宇宙望遠鏡は初期宇宙と同じような環境にある小マゼラン雲に存在する星団・NGC 346において、原始惑星系円盤が長く存在する星を発見し、木星よりも大きい巨大惑星が形成されうることに成功していた。これらの発見された星は年齢がおよそ2,000~3,000万年ほどであり、理論モデルではこれらの星に存在する原始惑星系円盤が200~300万光年で消え去ると考えられていたことから、どのようにして原始惑星系円盤が長く生き続け、惑星が形成されるかについての謎が残されている。
研究チームはこの謎に迫るべく、JWSTを使って再度NGC 346を観測することとした。これらの若い星まわりにある円盤は、天の川銀河に存在する若い星まわりに形成される円盤よりも長く存在していることが知られている。観測の結果、図1のような分光結果を得ることに成功した。Guide氏は「我々は、今回観測した星が本当に原始惑星系円盤に囲まれており、その円盤がまだ周りからガスや塵を集めている段階にあることを確かめることができた。このことはその星周りの惑星がゆっくりと時間をかけて大きく成長していくことを示している。」とコメントしている。
今回の結果は、重元素量の少ない環境下にある星の場合、そのまわりの原始惑星系円盤は100万年以下という短い期間ですぐに消え去ってしまうという理論を覆すこととなった。しかしここで新たに生じた疑問として、もし原始惑星系円盤が星周りに十分に長くとどまることができなかった場合、どのようにして塵同士がくっつき、大きな惑星に成長するかということである。これに対して研究チームは、そもそも原始惑星系円盤が星周りにとどまり続けるという理論を2つ考え出した。1つ目は単純に原始惑星系円盤の重元素量が、太陽に存在する重元素量の10%程度であるため、原始惑星系円盤が吹き飛ばされにくいという考えである。原始惑星系円盤は、星からの光による圧力によって吹き飛ばされるが、原始惑星系円盤内にある元素が水素やヘリウムよりも重い元素であると、光の圧力を受けやすい。2つ目の理論としては、太陽に似た恒星の重元素量が少ない場合、大きなガス雲を作るため、大きな原始惑星系円盤が出来上がり、質量が大きい分、吹き飛ばされにくいという理論である。この2つの理論の組み合わせであることも十分に考えられるとしている。
共同研究者の Elena Sabbi氏(NSF国立光赤外線天文学研究所・アメリカ)は、「今回観測した星周りで様々な要素があるが、初期宇宙と同じ環境にある星周りの原始惑星系円盤は長生きすることが判明し、これまでの理論よりも10倍ほど長生きすることが確認された。今回の観測成果によって、コンピューターシミュレーションにおける惑星形成理論についてどのような環境を用意するかを考える必要があり、とても楽しみである」とコメントしている。