2月15日

 

 

 

写真1 ( C ) ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li.

ユークリッド衛星が捉えた銀河・NGC 6505周りのアインシュタインリング。写真中央の明るく輝く天体がNGC 6505であり、そのまわりに重力レンズ効果によってできたアインシュタインリングがある。

 

 

写真2 ( C ) ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre, G. Anselmi, T. Li.

写真1の中央部分をクローズアップしたもの。

 

 Conor O’Riordan氏(ドイツ・マックスプランク重力物理学研究所)を中心とする研究グループは10日、ユークリッド衛星(*注1)の観測により、銀河・NGC 6505周りのアインシュタインリングを発見したと発表した(写真1)。アインシュタインリングは重力レンズ効果によってできる光の輪である。今後ユークリッド衛星の観測により、重力レンズ効果を用いた目に見えないダークマターやダークエネルギーの詳細な分布図が作成されることが期待されるとしている。

 

 重力レンズ効果は、強大な重力を持つ銀河団やブラックホールなどがレンズ天体となり、更に遠方にある天体からの光を増光したり、曲げたりする現象のことである。

 

 NGC 6505は地球からおよそ5億9,000万光年離れた場所にあり、1884年に初めて観測され、天文学者たちにとっては有名な銀河である。しかしこれまでの観測において、この銀河周りのアインシュタインリングが観測されたことはなかった。

 

 今回研究チームは、ユークリッド衛星の観測データを解析した結果、NGC 6505が重力レンズ天体となり、その背景にある地球からおよそ44億2,000万光年離れた場所にある銀河からの光が曲げられ、リング状に写し出される様子が捉えられた(写真1)。このリング状の光の基となる銀河は、これまでに観測されたことはなく、名前が付けられていない。そもそも重力レンズ効果自体が見られることが珍しいことであるが、今回捉えられた写真は、重力レンズ天体が比較的地球から近い場所にあり、並びが綺麗なところが、とても珍しいことであるとしている。

 

 今回用いられたユークリッド衛星がNGC 6505周りのアインシュタインリングを捉えたため、いかにユークリッド衛星が高解像度で高性能な望遠鏡であるかがよくわかる。今後多くのアインシュタインリングが見つかることで、目に見えないダークマターやダークエネルギーの分布図を作ることも可能である。ユークリッド衛星には、このような宇宙の謎を明らかにしていくことが期待されている。

 

 ユークリッド衛星は地球からおよそ100億光年離れた場所までのおよそ数十億の銀河を捉える予定であり、10万個もの重力レンズが捉えられることが期待されている。これまでの観測で既に1,000個ほどの重力レンズが捉えられている。そもそもユークリッド衛星は、弱い重力レンズ効果と呼ばれる、遠方にある銀河からの光がレンズ天体によってかすかに引き延ばされる効果を捉えることを目的として、2024年の2月14日から観測が始まった。ところが今回のようにはっきりとした重力レンズ効果を捉えることに成功したため、今後も何か新しいものを見せてくれる可能性があるとしている。

 

*注1 ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とユークリッド・コンソーシャムが共同で開発した広域サーベイ観測用の衛星。宇宙膨張の歴史と宇宙の大規模構造の形成過程を詳しく調べ、ダークマターとダークエネルギーの性質を解明することを目的としている。口径1.2 mの望遠鏡で、可視光(550-900 nm)と近赤外線(900-2,000 nm)で全天の1/3以上にあたる約15,000平方度を6年間でカバーし、赤方偏移 z~2(約100億光年昔)までの10億個以上の銀河を観測しその空間分布を描き出す(宇宙地図を作成する)。この広域サーベイ(Euclid Wide Survey:EWS)の限界等級は、可視光で26.2等、近赤外で約24.5等である。EWSに加えて、さらに暗い天体まで観測するユークリッド・ディープ・フィールド計画もある。日本時間2023年7月2日(アメリカ時間7月1日)、アメリカのフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から米スペースX社の「ファルコン9」ロケットで打ち上げられた。