3月29日
写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, G. Mahler.
JWSTの近赤外線観測装置・NIRCamによって捉えられた銀河団・SMACSJ0028.2-7537と、遠くにある重力レンズ効果を受けた渦巻銀河の姿。真ん中で明るく輝く楕円形の天体が銀河団であり、周りのリング状の光は、銀河団の強大な重力によって遠くにある渦巻銀河から出る光が曲げられてできたものである。
ESAは27日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置・NIRCamによって撮影された重力レンズ効果を受けた渦巻銀河とレンズ天体である銀河団の写真を公開した(写真1)。写真を見ると一つの渦をまく銀河に見えるが、実際には2つの天体が重なっている。真ん中で明るく輝く楕円形をした天体は銀河団であり、レンズ天体としての役割を持つ。その銀河団よりも遠く離れた場所にある渦巻銀河からの光がレンズ天体による重力レンズ効果によって曲げられて、リングとして写し出されている。リングの部分を見ると、星団やガスの構造がしっかりと写し出されている様子がわかる。写真1は視線方向にある2つの天体を同時に写し出していることになるが、このような光景が捉えられることはとても珍しい。
重力レンズ効果とは、一般相対性理論から導き出される効果であり、観測者と観測する天体の間に強大な質量を持つ天体の重力によって、観測する天体から出る光が曲げられ、リングとして見えるようになったり、増光現象をもたらすことをいう。重力レンズ効果によって見えるこのリングは、一般相対性理論を発表したアインシュタインの名前にちなんで、アインシュタインリングと呼ばれる。アインシュタインリングは、レンズ天体と重力レンズ効果を受ける天体の並びが完全に直線上にある時に、写し出される。逆にこの重力レンズ効果を利用して、かすかな光しか出さない遠くにある天体の姿を写し出すことが可能であるため、研究者達にとっては遠くにある銀河の成り立ちを調べる上で、重力レンズ効果は重要な性質を持つ。
今回公開された写真1は、Guillaume Mahler(ベルギー・リエージュ大学)氏を中心とする国際研究チームが、JWSTの近赤外線観測装置・NIRCamを用いて、レンズ天体と銀河団進化の調査を行うSLICEプログラムによって得られたデータを解析した結果が反映されている。またハッブル宇宙望遠鏡によって得られたデータも利用されている。レンズ天体である銀河団はSMACSJ0028.2-7537という名前がつけられている。また光がリング状に曲げられた銀河は渦巻銀河であり、個々の星団やガスの構造がしっかりと写し出されている様子がわかる。
SLICEプログラムは、年齢が80億年ほどの182もの銀河団の姿を捉えることを目標としており、今後様々な銀河団の特徴が捉えられることが期待されている。