5月24日
写真1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Balashev and P. Noterdaeme et al.
アルマ望遠鏡によって捉えられた、地球からおよそ110億光年離れた場所にある2つの衝突中の銀河。右側の銀河中心にクエーサーが存在し、強い放射線を放出し、左側の銀河に影響を及ぼしている。
Pasquier Noterdaeme氏(パリ天体物理学研究所)を中心とする研究チームは21日、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡とアルマ望遠鏡を用いた観測により、110億光年という遠く離れた宇宙において、2つの銀河が秒速500kmという速度で衝突し、1つの銀河の中心にあるクエーサーから強い放射線が放出され、もう片方の銀河に影響を及ぼす姿を捉えることに成功したと発表した(写真1)。衝突というものの、お互いにかすめる程度の衝突であることから「宇宙の馬上槍試合」と比喩することとしたとしている。宇宙の馬上槍試合といいつつ、これらの衝突している騎士(銀河)の一人は、不公正なアドバンテージを持っており、クエーサーを利用して強い放射線という槍を他方の銀河に向けて放っている。この放射線の影響により、銀河内の星形成能力が衰退することが判明したとしている。
クエーサーは銀河中心にある巨大ブラックホールの影響で周りから物質を集めて光り輝く天体のことであり、強い放射線を放出する。
宇宙誕生から最初の10億年を経過した時期では、クエーサーと銀河の合併は当たり前のように行われていたと考えられており、今回研究チームは高精度な天体望遠鏡を使って観測を行うこととした。
今回研究チームは、ESOのVLT望遠鏡とアルマ望遠鏡を用いた観測により、写真1のような2つの銀河が衝突している様子を捉えることに成功した。VLT望遠鏡にはX-shooterと呼ばれる機器が搭載されており、クエーサーから放たれる放射線を捉えることが可能であり、アルマ望遠鏡はこれまでの望遠鏡では1つの銀河に見えていた遠くの宇宙にある銀河の姿を、詳細に捉えることが可能である。写真1に写る銀河は、110億光年かけてきた光を捉えたものであり、現在の宇宙年齢のおよそ18%しか経過していない初期宇宙の銀河衝突の様子を見ていることとなる。共同研究者のSergei Balashev氏(Ioffe Institute in St. Petersburg, Russia)は、「今回衝突中の銀河中心にあるクエーサーから放出される放射線が、他の銀河に影響を及ぼすことによって内部のガス構造がどのようになっているのかを初めて捉えることに成功した。」とコメントしている。今回の観測によって、クエーサーから放出される放射線が他方の銀河中のガスや塵で構成される雲を破壊し、星形成を阻害させることが判明した。その一方で銀河同士の衝突によって、銀河中心のブラックホールにガスが供給され、クエーサーの燃料となり、強い放射線の放出が続く要因となることも判明した。
研究チームは現在チリに建設中のELT望遠鏡によって、これらの衝突中の銀河の中にあるクエーサーや、クエーサーから放出される放射線の影響を受けた銀河、近傍銀河の進化を理解するうえで、重要な情報が将来的にもたらされることが期待されるとしている。
写真2 ( C ) ESO/M. Kornmesser.
今回観測対象となった2つの銀河のイメージ図。