5月31日
写真1 ( C ) ESA/Webb, NASA & CSA, H. Atek, M. Zamani (ESA/Webb).
ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡によって撮影された、つる座方向約45億光年離れた場所にある銀河団と、その背景にある銀河が重力レンズ効果によって光が曲げられた姿が写し出されている。真ん中で光り輝く天体が、楕円形の銀河がたくさん集まった巨大銀河団・Abell S1063であり、強大な重力を持ち重力レンズ天体としての役割を果たす。まわりにある弧状に伸ばされた赤い光が遠方宇宙にある銀河の光である。
ESAは27日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の近赤外線観測装置・NIRCamによって撮影された巨大銀河団・Abell S1063(エイベルカタログに記載された天体の一つ)の姿(写真1)を公開した。
銀河団・Abell S1063は、つる座方向およそ45億光年離れた場所に位置する。強大な重力を持っており、重力レンズ効果をもたらすことが特徴的である。重力レンズ効果とは、強大な重力を持つブラックホールや銀河団がレンズとしての役割を持ち、レンズ天体よりも遠方にある様々な天体からの光を増光し、像を拡大させるとともに、光の進行方向を曲げる効果のことをいう。重力レンズ効果を利用して、光の弱い遠方銀河を観測し、初期宇宙の状態を研究することが盛んに行われている。かつてはハッブル宇宙望遠鏡によっても観測され、背景にある遠方銀河の姿を捉えることに成功していた。
今回ESAによって公開された写真1を見ると、真ん中に光り輝く銀河団・Abell S1063が写っており、その周りには遠方銀河から放たれる光が重力レンズ効果によって、線状の光が弧状に並んでいる様子がしっかりと写し出されている。この写真は、ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された写真よりも背景にある遠方銀河の数が多く、しっかりとした姿が写し出されている。ハッブル宇宙望遠鏡同様に、重力レンズ効果により銀河団・Abell S1063が重力レンズ天体となって、この銀河団よりももっと遠くにある銀河からの光を増光し、像を拡大させるとともに、光の進行方向を曲げる様子をJWSTが捉えている。また遠方銀河からの光は、重力レンズ天体周りの強力な重力が効いている円周りの接線方向に伸ばされる性質があり、写真1ではその通りの姿を示している。
今回のJWSTによる巨大銀河団・Abell S1063の撮影は、「宇宙の夜明け」と呼ばれる、宇宙が生まれてから数百万年しか経っていない頃の姿を明らかにすることを目的として行われ、一つの領域を9つの異なる近赤外線波長領域を利用し、120時間かけて撮影された。こうすることによって重力レンズ効果による光の現象をしっかりと捉えることができると事前に考えられていた。
今後もAbell S1063のような重力レンズ効果を持つ天体の観測をJWSTが続けることにより、初期宇宙における銀河の形成過程が理解されることが期待されるとしている。