7月13日
写真1 ( C ) ESA/Hubble & NASA, M. Postman, P. Kelly.
ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたくじら座方向にある銀河団・Abell 209の姿。写真中央からやや右あたりのある一点まわりに大きな楕円形で金色に光り輝く銀河が写し出されており、これらの銀河がAbell 209を構成する。
ESAは7日、ハッブル宇宙望遠鏡(以下HST)によって捉えられた重力レンズ効果を受けた遠方銀河団・Abell 209の写真を公開した(写真1)。金色に光り輝く天体がAbell 209を構成する銀河であり、この写真上では、100個以上存在する。またこれらの銀河は、重力レンズ効果を受けて、目に見えないダークマター周りの円の接線方向にわずかに引き伸ばされるように写し出されている。
Abell 209は、くじら座方向約28億光年離れた場所に位置する。写真1ではAbell 209を構成する銀河が100個以上写し出されているが、もっと多くの銀河が存在すると考えられている。またAbell 209を構成するそれぞれの銀河は、数百万光年距離が離れていると考えられており、写真を見るとそれぞれの銀河間に物質が何も存在しない空の空間が広がっているように見える。しかしX線で観測すると、これらの銀河間の間には、温かい分散されたガスが広がっている。またAbell 209には多くのダークマターが存在すると考えられている。
ダークマターは目に見えない物質であり、重力レンズ天体ともなりうる強大な重力をもたらすこともある。なおこの宇宙には、ダークマターが25%、宇宙の加速的膨張に寄与すると考えられているダークエネルギーが70%、それ以外の通常の物質、いわゆるバリオンが5%を占めていると考えられている。
重力レンズ効果とは、我々観測者と遠くにある天体の間に強大な重力を持つ天体が存在すると、その天体が重力レンズ天体となり、背景にある天体からの光を曲げたり、増光する現象をもたらすことをいう。光を曲げる場合には、重力レンズ天体の円の接線方向に光を伸ばしていく。逆にこのような光が曲げられた天体を多く観測することで、それらの中心にあるダークマターのような目に見えない重力レンズ天体を発見することも可能である。
今回ESAによって公開された写真1を見ると、金色に輝く多くの天体が写し出されているのが印象的であるが、これらの天体はわずかながらに重力レンズ効果の影響を受けているとしている。通常の重力レンズ効果のように、円の接線方向に明らかに光が引き伸ばされた銀河の姿は写し出されていない。しかしよく見ると、わずかに光が曲げられている様子が写し出されている。この銀河の光のゆがみ具合を基に、どの場所にどのくらいのダークマターが存在するかを確かめることができるとしている。
HSTによって行われている今回のような観測によって、宇宙におけるダークマターの謎を解き明かし、宇宙がどのようにして進化してきたかを理解する上で重要な手がかりをもたらすことが期待されている。それは強大な質量を持つ銀河団を調査することによって、その銀河団がもたらす重力レンズ効果が自身に及ぼす影響や、背景にある銀河や星たちの光の像を曲げたり、増光現象を捉えることが可能であり、ダークマターの分布を調べることが可能なためである。