8月29日

 

 

画像1 (C) ESO/GRAVITY collaboration.

今回観測されたいて座Aスター近くにある星・S301の軌道。実線が実際に捉えられた軌道、破線は観測日以降の軌道予測。

 

 Felix Mang氏(マックスプランク研究所・ポスドク)を中心とする研究チームは19日、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT望遠鏡を用いた観測により、超巨大ブラックホール・いて座Aスターに観測史上最も近くに存在する星・S301の軌道を特定し、その速度が25,000km/sに達することが判明したと発表した(画像1)。S301の軌道はいて座Aスターの強大な重力とスピンの影響を受けており、今回の研究成果は、超巨大ブラックホールのスピンを直接捉える上で重要な資料になるとしている。超巨大ブラックホールのスピンは一般相対性理論によって導かれた理論であるが、今回の研究成果がそれを証明しうることとなり、今後の検証が待たれる。

 

 いて座Aスターは、天の川銀河中心にある超巨大ブラックホールであり、太陽質量のおよそ400万倍の質量を持つ。その近くに、今回研究対象となった星S301が存在する。この星は2023年の春に初めて観測され、過去の観測データから、2017年まで遡ってその軌道が特定された。この星はいて座Aスターにあまりにも近くに存在し、その強大な重力環境下から通常であれば、この軌道に星は存在しない。S301はかつて連星系として存在し、いて座Aスターによって潮汐破壊され、一方の星は遠くへ飛んでいき、もう一つの星がS301として残されたと考えられている。またS301はベテルギウスの20億倍弱い光しか出さないため、その観測は容易ではない。

 

 研究チームは、今回VLT望遠鏡に搭載されたVLTIと呼ばれる電波干渉計を用いて、S301の観測を行った。その結果、画像1のような軌道を特定することに成功した。そしてS301の起動速度が25,000km/s(光の速度の8%)というとてつもないスピードを持ち、いて座Aスターからの距離が太陽-土星間ほどの距離であり、わずか8.7年でいて座Aスターまわりを軌道運動することが判明した。またS301が一般相対性理論上、いて座Aスターの回転の効果(画像2)を受けるため、ブラックホールの回転を直接観測するのに利用できるとしている。

 

 Mang氏は「2031年にS301の2回目の閉じた軌道を観測することが可能である。現在建設中のELT望遠鏡の観測によって、精度の高い、いて座Aスターの回転速度を求めることが夢であり、それが叶うだろう」とコメントしている。

 

 

画像2 (C) ESO/M. Kornmesser.

一般相対性理論によって、強大な重力を持つ天体が回転をすると、周りに空間のねじれが生じることがわかっている。この空間のねじれにきた天体は、レンズ・チュリング歳差運動という運動を起こす。