9月10日
国立天文台宇宙電波観測所の金子紘之研究員を中心とする合同研究チームは、5日、野辺山45m電波望遠鏡を用いた観測により、衝突し始めの銀河においては衝突前からあった水素原子をもとに水素分子が効率的に作られていることを明らかにしたと発表した。これは2つの銀河が衝突し始めた時に、衝撃波(空気の強い波)がそれぞれの銀河中に広がったことが原因である可能性が高いことを挙げている。銀河が衝突すると太陽のような恒星が数多く誕生すること(スターバースト)が知られているが、 その原因解明に向けた重要なカギとなる研究結果であるとしている。
太陽のような恒星が数百億個も集まってできている銀河は、重力によって近くの銀河同士が衝突しあうということが頻繁にある。このような衝突している銀河は、重力でお互いに影響を及ぼしあっていることから「相互作用銀河」と呼ばれる。相互作用銀河では、重力相互作用が二本腕の構造を作ったり、渦巻型から楕円型への変化といった銀河の性質を変えることに大きな影響を与えることがわかっている。また相互作用銀河は衝突していない銀河に比べて、恒星が非常に多く誕生している。しかしこれらの現象が起きる要因については多くの謎が残されたままである。
恒星は分子ガスが集まることで作られるため、銀河同士の衝突で恒星ができやすいことは、銀河の衝突の影響が分子ガスにも及んでいることを示唆している。これまでに行われてきた観測では、衝突がかなり進みすでに多くの恒星が作られた相互作用銀河に偏っていた。そのため何が分子ガスに影響を与えているかの要因を解明することができなかった。
このような背景の中、研究グループでは衝突によって分子ガスがどのような影響を受けているかを調べるために、恒星がまだあまり作られていない衝突し始めの相互作用銀河を対象として、野辺山45m電波望遠鏡を使って分子ガスの観測を行った。またアメリカのVLA望遠鏡で撮られた水素原子ガスのデータを組み合わせて、 銀河の中で分子ガスの質量が水素ガス全体(水素原子ガス+水素分子ガス)の質量のうちどれくらいの割合で占められているかを衝突し始めの相互作用銀河について調べた。 その結果、一つ一つのの銀河全体で比べてみると、相互作用銀河では衝突していない銀河に比べて分子ガスの割合が高くなっていることがわかった。水素ガスの総量には差が無いので、 この結果は水素原子ガスが減って水素分子ガスが増えたことを示している。次にどこでそのような変化が起こっているかを調べるために、全水素ガス中に占める分子ガスの割合の空間分布を図1、2に示した。 衝突していない銀河では典型的に図1のように、銀河の中心から外に行くにつれて分子ガスの割合が減っていく様子がわかる。 それに対して、相互作用銀河では図2のように銀河全体で分子ガスの割合が高かったり、そもそも複雑な分布になっている様子が見られる。 銀河の衝突によって銀河全体に対して影響が及んでいることがわかる。
(C) 国立天文台
図1. 衝突していない銀河での水素ガス全体に対する水素分子ガスの空間分布の例(NGC 5055)。+印は銀河の中心を表す。
(C) 国立天文台
図2. 相互作用銀河での水素ガス全体に対する水素分子ガスの空間分布。+印は銀河の中心を表す。
次に研究チームは水素ガスの総量と分子ガスの割合の関係を調べた。衝突していない銀河では図3左のように右肩上がりの関係が見られるが、相互作用銀河の中には右肩下がりの関係を持つ銀河が見られた(図3右)。これはこれまで報告されたことが無く、 今まで使われていた理論モデルでは説明できない。そこで研究グループは、銀河衝突によって衝撃波が起こり、銀河全体に広がっていくと考え、 その効果を理論モデルに組み込んだ。その結果この理論モデルが観測結果を再現できることがわかった。 よって相互作用銀河では衝撃波が水素原子ガスを圧縮する作用によって効率的に水素分子ガスへと変換させていることが明らかになったのである。
(C) 国立天文台
図3. 衝突していない銀河(NGC 5055)と相互作用銀河(NGC 5395)の場所ごとの水素ガスの量と水素分子ガスの割合をプロットしたもの。
これまでの研究では、銀河衝突によって分子ガスが濃くなって効率よく恒星を生み出しているというシナリオが一般的であった。しかし今回の研究成果は恒星の素となる分子ガスが多くなったために、単純にできる恒星も多くなったというシナリオがありうることを示している。今後、研究チームはどちらの現象が起きているか、それとも両方の現象が起きているのかのかを解明することを目指すとしている。