11月3日
国立天文台と放送大学の研究チームは10月31日、すばる望遠鏡によって渦巻銀河であるメシエ77を撮影し、集められた様々なデータを解析した結果、この銀河が数十億年前に近くにあった別の小さな銀河を取り込んで、中心核にある超巨大ブラックホールを活性化させた証拠が得られたと発表した。この研究成果は、メシエ 77 中心核活動の起源を解明する上で重要な成果であるとしている。
( C ) : 国立天文台/SDSS/David Hogg/Michael Blanton、画像処理:田中壱)
画像1 : すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ (HSC) で撮影されたメシエ 77 の深撮像画像。銀河の色情報はスローン・デジタル・スカイ・サーベイの3色画像から抽出し、HSC 画像に追加している。
メシエ 77 は NGC 1068 、セイファート銀河とも呼ばれ、くじら座の首付近に位置する明るい銀河であり、距離はおよそ5千万光年で、比較的我々の銀河系の近くにある。明るい円盤部の直径がおよそ 11 万光年あり、我々の銀河系よりやや大きい。また中心に莫大なエネルギーを放出する「活動銀河核」を持つことが知られている。エネルギーは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールから発生していると考えられていて、メシエ 77 の場合、超巨大ブラックホールの質量は、太陽 1000 万個分に及ぶと考えられている。超巨大ブラックホールを活動銀河核とするためには、銀河中心にある超巨大ブラックホールに莫大な量のガスを供給し続けなければならない。しかし中心核の周囲を回るガスは、奥深くにあるブラックホールに落ちる前にその周囲で回転を速め、遠心力が働き、簡単には落ちていかない。これは台所やお風呂などの排水口から水が勢いよく回転しながら排水されていく際に水がなかなか落ちていかない様子とほぼ同じである。どのようにして中心にガスが供給されるかは現在も謎のままであるが、今回の研究チームのリーダーである放送大学教授の谷口義明氏は1999年、銀河核がガスを得て活動的になる上で、その銀河の近くにある、より小さな質量の「衛星銀河」の合体が鍵だと発表していた。通常は大きな銀河に衛星銀河が飲み込まれても、小さな銀河は壊されるだけであるが、仮に衛星銀河の中心に小さな超巨大ブラックホールがいたらどうなるかを谷口氏は考察。ブラックホールは壊される事がないため、次第に大きな親銀河の中心まで落ちていき、親銀河中心の超巨大ブラックホール周囲に形成されているガス円盤を激しくかき乱す。そして乱されたガスが一気に中心にある超巨大ブラックホールに落下し、活動銀河核になると結論付けていた。
研究チームは衛星銀河合体の証拠を得るべくして、すばる望遠鏡によるメシエ77の観測を2016年のクリスマスの夜に実施した。観測によって画像1の銀河の明るい円盤のさらに外側に、広がった淡い腕を発見(画像2)。さらにその反対側には、渦巻腕とは明らかに違うさざ波状の構造を発見した。このような構造は、最近他のグループが理論的に予想した、衛星銀河の合体で引き起こされる親銀河円盤上の構造と似ているとしている。さらに、親銀河のすぐ外側に、直径5万光年もありながら、これまでの観測ではほとんど見えていなかった極めて淡い、ぼんやりした雲状の構造を3つ見つけ、そのうちの2つは銀河本体を取りまく、直径約 25 万光年にも及ぶ巨大なループ状の構造の一部であること見出した。このようなループは、衛星銀河の合体の際形成される特徴的な構造であり、これらの状況証拠がメシエ 77 が、衛星銀河を取り込んだことを証明するものだとしている。
画像2
(左)メシエ 77 周囲に新たに見つかった極めて淡い外部構造。3つの図の重ね合わせで、中心はこれまで見えていた明るい銀河円盤部のカラー写真。その外側の赤茶色部は、コントラスト強調して現れてきた、銀河円盤の外側の一つ腕構造 ("Banana") 及びその反対側のさざ波構造 ("Ripple")。この部分は星や手前の銀河など、メシエ 77 自身とは無関係な天体は消されている。一番外側のモノクローム画像に黄色い丸で示したものが、すばる望遠鏡で検出された巨大な淡い外部構造 (UDO-SE, UDO-SW, UDO-NE) で、UDO-NE と UDO-SW は大きなループ構造の一部であると考えられている。(クレジット:国立天文台)
(右) メシエ 77 周囲に新たに見つかった淡い構造を示した想像図。(クレジット・作画:池下章裕)