12月9日
国立天文台は7日、ダン・マローン氏(アリゾナ大学)を中心とする研究チームが、アルマ望遠鏡による観測により、宇宙誕生からおよそ7億7000万年(宇宙年齢の5%)が経過した時代に、2つの巨大銀河を発見したと発表した。これは銀河の構成要素となる小さな星の集団が、予想以上に短い時間で合体していくことを示しているとしている。
科学者の間では、ビッグバンから数億年ののちに存在した生まれたばかりの銀河は、現代の矮小(わいしょう)銀河と共通点が多いものであり、数十億個の星々が集まった原始銀河が互いに合体することでより大きな銀河となると考えられている。しかし今回の観測結果はこの考え方に疑問を与える結果となった。
研究チームが今回観測したのは、南極点望遠鏡で発見されたSPT0311-58と呼ばれる天体。南極点望遠鏡の観測ではこの天体はひとつに見え、また非常に遠くにあって赤外線を強く出していることが明らかになっていた。これは、この銀河には塵がきわめて多く、爆発的に星形成が進んでいることを示唆している。
今回のアルマ望遠鏡による詳細観測では、この銀河までの距離が正確に求められただけでなく、衝突しつつある2つの銀河であることがわかった。2つの銀河間の距離は地球と天の川銀河中心までの距離(約26,000光年)よりも近い。そして重力レンズ効果の数値解析によって、2つの銀河のうちの大きいほうの銀河では1年間に太陽2900個分もの星が誕生していることがわかった。(私たちが住む天の川銀河では1年に太陽数個程度の星しか生まれていない。) 爆発的な星形成が進んでいる理由として、研究チームは少し小さな隣の銀河と近接遭遇しているからだと考えている。小さいほうの銀河に含まれる星の総質量は太陽350億個分であり、1年間に太陽540個分の星を作り出している。
また今回の観測で、2つの銀河を取り巻く巨大なダークマターの集合体(ダークマターハロー)の存在も示唆されている。ダークマターは重力を及ぼすことによって、銀河や銀河団といった構造を宇宙の中に作り出したと考えられている物質である。
「次のアルマ望遠鏡の観測では、これらの銀河がどれくらい早く形作られるのか理解し、巨大銀河の理解を進めることができるでしょう」とマローン氏は今後の期待について述べた。
(C) NRAO/AUI/NSF; D. Berry
アルマ望遠鏡で発見された宇宙初期の巨大銀河ペアの想像図
(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Marrone, et al.; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF); NASA/ESA Hubble
今回観測されたSPT0311-58の観測画像。アルマ望遠鏡の画像を赤、ハッブル宇宙望遠鏡の画像を青と緑で合成している。右側の銀河の像は重力レンズによってゆがめられている。重力レンズの原因になっている手前の銀河は、アルマ望遠鏡がとらえた2つの銀河の間に緑色で見えている。