12月31日
国立極地研究所は28日、200年前に落下したとされる“八王子隕石”の小片を初めて詳細に分析し、H5普通コンドライトと呼ばれる種類の隕石であることが判明したと発表した。
今から200年前の1817年12月29日、現在の八王子市中心部に多数の隕石が落下した。この「八王子隕石」については当時の日記などの史料に多くの記録が残されており、約10kmの範囲に長さ1m程度のものを含む多くの破片が落下した隕石雨(隕石シャワーとも言う)だったことが分かっている。落ちた隕石の一部は江戸幕府勘定奉行所に届けられ天文方によって調べられたが、その後散逸によって全て失われた。1950年代になり、京都の土御門家の古典籍の中から、約0.1gの隕石小片が発見された。「隕石之事」と書かれた紙包みの中に、八王子隕石について書かれた紙に挟まれて入っていたため、八王子隕石の一つであると考えられた。しかし、同じ包みの中に曽根隕石(1866年6月7日、現在の京都府京丹波町に落下した約17kgの隕石。京都府が所蔵し、国立科学博物館に寄託・展示中)について書かれた紙も入っており、曽根隕石の一部である可能性も指摘された。
小片が八王子隕石であるかを確かめるためには、他に八王子隕石があれば、この小片と比較することで確認がとれるが、未だに八王子隕石と断定できる隕石は見つかっていない。別の判断の仕方としては、小片と曽根隕石とを詳細に分析し両者に違いが見つかれば、八王子隕石である可能性が高いと判断できる。しかしこれまでの技術では微量な隕石小片を分析することすら困難だった。
国立極地研究所の研究員を中心とする研究グループは、隕石の小片(116.1mg)から、20.0mgを割りとり、研磨薄片を作成し、光学顕微鏡による組織観察および電子線マイクロアナライザによる鉱物組成(かんらん石、輝石、自然ニッケル鉄、酸化鉱物)の分析を行った。また、別の0.7mgを用いてX線回折装置による分析を、5.4mgを用いて希ガスの分析を行った。比較のため曽根隕石に対しても同様の分析を行った。その結果、分析した隕石小片は「普通コンドライト」*(注1)と呼ばれる種類で、化学的グループはHで岩石学的タイプは5(以下「H5」と略す)であることがわかった。これは曽根隕石と同じである。X線分析、希ガス組成、宇宙線照射年代においても、分析した小片と曽根隕石の違いはほとんど見つからなかった。
これらの分析結果は隕石小片が八王子隕石ではなく、曽根隕石である可能性があることを示した。一方でH5普通コンドライトは全隕石の約18%(57,168個のうちの10,109個)を占めている最も多い種類の隕石であり、八王子隕石と曽根隕石がたまたま同じタイプの隕石であった可能性も十分にあるとしている。
八王子隕石は数多く降り注いだとされており、隕石の一部が今も八王子市内の旧家などに残っているかもしれない。研究チームは今後、広く一般に呼び掛けることで、八王子隕石の発見と分析を進めていくとしている。
*注1
カンラン石、輝石、斜長石、トロイライト(硫化鉄)、テーナイト(鉄ニッケル金属)、クロマイトなどの鉱物により微粒子が構成されている岩石質の隕石であり、地球に落ちてくる隕石の8割を占める。
(C) 国立科学博物館
今回分析した隕石。図中の黒線は5 mm。