4月10日

 

 理化学研究所のイーチェン・チャン研究員を中心とする国際共同研究グループは3月28日、地球から約5,500光年離れたIRAS07299-1651という大質量星形成領域から放射される波長1.3mmの電波をアルマ望遠鏡によって観測した結果、形成段階にある大質量星の連星系を発見し、その公転運動の解明に成功したと発表した。2個の原始星の合計質量は太陽質量の18倍以上であり、お互いを公転する周期は600年以下であることを明らかにした。さらに連星周囲のガス降着流構造を解析した結果、先に生まれた主星に付随するガス円盤が分裂することで伴星が誕生した可能性が高いことを示した。

 

 太陽質量の8倍以上の質量を持つ恒星は大質量星(*注1)と呼ばれる 。大質量星は一生の終わりに大爆発を起こし、さまざまな重元素(水素、ヘリウムよりも重い元素)を宇宙空間にばらまく。ほぼ全ての大質量星が兄弟星を伴う連星系として存在することが、近年の研究からわかっている。高密度なガス雲が重力的に収縮することで大質量星が誕生すると考えられているが、そのガス雲収縮の中でどのようにして連星系が誕生するのかについては未だに解明されておらず、これまでに2つのシナリオが提案されている。1つ目は、先に生まれた主星の周りのガス円盤が分裂することで伴星が誕生するというもの、もう1つは、高密度なガス雲が収縮する過程で二つの大質量星がそれぞれ独立に誕生するというものである。

 

 国際共同研究グループは連星系の誕生過程を解明すべく、地球から約5,500光年離れたIRAS07299-1651という大質量星形成領域から放射される波長1.3mm(この波長は長波長である)の電波を、アルマ望遠鏡を用いて観測した。その結果、その領域の中心に2つの若い大質量原始星が約180天文単位(*注2)離れて存在することを発見した。これまでに見つかっている中で最も近接した大質量連星系である。また、それぞれの原始星の周囲のガスから水素再結合線(*注3) が観測されたことから、どちらの原始星も既に強力な紫外線を放出する程度まで質量を獲得していることがわかった。

 

 さらに電離ガスから放出される水素再結合線を解析した結果、2つの原始星の視線方向の速度差が約9.5km/sであることがわかった。得られた原始星間の距離と速度差から、公転軌道が円形の場合には、2つの原始星の合計質量は太陽質量の18倍以上、楕円軌道を考慮しても太陽質量の9倍以上であると見積もられた。その他にも、伴星の質量は最大で主星の約8割、お互いを公転する周期は600年以下だということもわかった。

 

 また大規模なガス雲から連星系へ流れ込む降着流の運動からは、降着ガスも含めた合計質量が太陽質量の約27倍であること、電離ガスの明るさからは、2つの原始星の質量がそれぞれ太陽質量の12倍と10倍程度と見積もられた。また水素再結合線による恒星の運動情報からは、主星の質量が少なくとも太陽質量の4~8倍以上であることがわかった。様々な方法で2つの連星質量を解析したこれらの結果は、先に述べた質量の見積もりの信頼性を高めるものである。

 

 さらに、連星系の公転運動(約100au)だけではなく、それを取り囲む大規模なガス降着流(約1,000-10,000 au)と、それぞれの原始星を取り囲むガス円盤(約10au)を含む多重スケールにわたる大質量連星系の誕生の様子を解析した結果、2つの原始星の質量が同程度であることや、ほかに小質量星が同時に誕生していないことなどから、「この連星系は、先に生まれた主星に付随するガス円盤が分裂することで伴星が誕生した可能性が高い」と結論づけた。しかし連星公転面と主星円盤面にズレが存在するため、単純な円盤分裂シナリオではこの連星系の誕生を説明することは難しいことも指摘しており、課題が残る結果となった。

 

 本研究では、大質量連星系の誕生時のダイナミクスを初めて明らかにした。円盤分裂シナリオでは、公転軌道が円形に近い連星系が誕生することが示唆されているため、将来、観測によってその形状が分かれば、この連星系の起源を決定づけられる可能性がある。また異なる波長で連星系の観測を行うことで、中性ガスと電離ガスが正確に区別され、それぞれの原始星へのガス降着の様子をより詳しく調べることができるとしている。

 

*注1 太陽質量の約8倍以上の質量を持つ恒星のこと。数は少ないが、星は重いほど明るく光るため、夜空でも目立つ存在である(オリオン座のベテルギウスなど)。大質量星はその寿命を終える際に大爆発を起こし、さまざまな元素を宇宙空間にばらまく。その一部は私たちの身体を構築する元素でもあり、そのため大質量星の誕生の過程を理解することは非常に重要である。しかし、その数は太陽質量程度の星(小質量星)と比べて2桁程少なく、また深くガスと塵の雲に埋もれたまま誕生するため、大質量星の形成過程はまだよく理解されていない。

 

*注2 天文学で用いられる距離の単位。1天文単位は地球と太陽の距離に由来し、約1億5000万km。auはastronomical unitの略。

 

*注3 正の電荷を持つ「水素イオン」と負の電荷を持つ「電子」が結合する際に放出されるスペクトル線。中性ガスが大質量星などから放射される紫外線によって電離破壊され、水素イオンと電子に分かれたものが、再び結合したときに放出されるため「再結合線」と呼ばれる。13.6 eV以上のエネルギーを持つ電磁波(紫外線)でなければ電離破壊がおこらないため、再結合線が観測されるということはそのような紫外線環境下にあることを意味する。

 

 

( C ) Credit: 理化学研究所、ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Zhang et al.

アルマ望遠鏡で観測された大質量連星系IRAS07299-1651とその周囲のガス雲。背景は、連星系の母体となるガスと塵の雲の分布(緑)。分子ガス輝線を用いて速度構造(赤:地球から遠ざかる運動、青:地球に近づく運動)を解析し、10,000au程度の大規模なガス雲から中心にある100au程度の連星系へ質量降着が続いていることを示した。右が今回発見された、形成段階にあるに二つの若い大質量原始星。水素結合線を用いて、主星(青)が地球に近づく方向に、伴星(赤)が地球から遠ざかる方向に運動していることを明らかにし、その公転運動を調べた。赤破線および青破線は、それぞれの原始星の軌道の例を示す。

 

 

( C )理化学研究所

今回発見された大質量連星系の現在と過去の姿の概念図。(左)現在の大質量連星系の姿。大規模なガス降着流、それによって成長を続ける大質量連星系、それぞれの原始星に付属するガス円盤という多重スケールにわたる構造とそのダイナミクスを解明した。(右)伴星誕生時の姿。現在の観測結果は、円盤分裂による伴星誕生のシナリオから予想される事柄 (図中(1)-(4)) とよく一致する。