6月5日
東京大学の安田教授を中心とする研究チームは5月29日、ろくぶんぎ座方向のCOSMOS領域をすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ(HSC)を用いて観測した結果、私たちから約 80 億光年以上(赤方偏移1以上)もの遠方にある超新星58個を始め、約1800 個もの超新星を発見したと発表した(図1)。近傍を含む大量の超新星を発見したことのみならず、遠方超新星を半年間という短期間の観測からこれほどの数発見できたことは、HSC の特長を合わせた観測の強みが存分に活かされた成果であるとしている。
超新星爆発は星が一生の最期に起こす大爆発で、宇宙進化の原動力であることが知られている。太陽の10億倍以上という銀河全体に匹敵する明るさで光り輝き、その後一カ月から半年ほどで暗くなる。特に、Ia (いちえい) 型と呼ばれる超新星はその絶対的な明るさがほぼ一定であるため、見かけの明るさの明暗により超新星までの距離を測定することが可能である。Ia型超新星は型の分類上、水素のスペクトル線はないが、シリコンのスペクトル線が見られる星のことをいう。Ia型は連星系で進化して巨星となった伴星から主星である白色矮星にガスが降り積もったり、白色矮星同士が合体することによって白色矮星がチャンドラ限界質量を越えたときに爆発すると考えられている。Ia型が距離に比例して明るさが変わる性質を利用して、Ia型超新星の観測によって宇宙の加速膨張が1998年発見された。
また近年では Ia 型超新星よりも 5-10 倍も明るい超高輝度超新星と呼ばれる特殊な超新星が次々と発見されている。超高輝度超新星は、その明るさのために非常に遠方のものまで観測できることから、宇宙初期にできた大質量星の性質を知るのに重要な手がかりになるとされている。
これらの超新星を効率よく発見し、その明るさの変化を測定するためには、空のできるだけ広い領域を長期間にわたって繰り返し観測して、新しく現れる天体を発見することが必要である。超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) は、すばる望遠鏡の大集光力と高解像度を活かして遠くの非常に暗い天体まで観測できることに加えて、満月9個分に相当する広い視野を一度に観測することができる。
研究グループは、2016年11月から2017年4月の半年間にわたり、ろくぶんぎ座方向の COSMOS 領域と呼ばれる天域約 7.5 平方度(HSC の視野5つ分)を繰り返し観測し、約1800個の超新星を発見した(図2)。
観測は青い波長(473 ナノメートル)から赤い波長(1005 ナノメートル)まで5つのフィルターで行われ、得られた多色の光度曲線をもとに超新星のタイプを判別したところ、そのうち約400個がIa型超新星と考えられることが判明した。このうち 129 個については正確な赤方偏移が知られており、58 個は赤方偏移が1以上、つまり約80億光年より遠くにあることがわかった。これまで、これほど遠くの Ia 型超新星は主にハッブル宇宙望遠鏡が過去 10 年間に実行した観測で発見された 50 個弱が知られているのみであった。また赤方偏移が2前後より大きい(約100億光年程度よりも遠方にある)超高輝度超新星も5個発見され、この時代にどの程度発生するかの出現頻度が測定できたとしている。
研究チームは今後、遠方の Ia 型超新星のデータを使って、より正確な宇宙加速膨張の値を導き出し、ダークエネルギーが時間とともにどのように変化しているかを調べていく予定である。
図1
( C ) N. Yasuda et al.
今回発見された超新星の例 (3枚1組の写真が一つの超新星の変化を示す)。左から順に爆発前、爆発後、超新星の様子を表す。
図2
( C ) Kavli IPMU, Partial data supplied by: SDSS
今回発見された超新星 (赤点) の分布。青い丸が HSC の視野。背景はスローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS) の画像。領域の大きさの比較のために満月の写真を右上に表示している。