球状星団の速度空間

 

速度空間図。横軸が動径方向速度の速度分散(km/s)、縦軸が接線速度の速度分散(km/s)。

 

まずNGC104における天体中心からみた動径速度と接線速度をどのように求めるかが問題となります。gaia archiveでは人工衛星gaiaからそれぞれの星に対するradial velocity(視線速度)、固有運動の値が掲載されていますが、この値を素直に使うことはできません。まずはこれらの値を使って、観測者からみたそれぞれの星の速度を求めます。そして観測者から星までの距離と、球状星団中心からそれぞれの星までの距離を用いた角度関係を利用して、それぞれの星の球状星団中心に対する動径方向の速度、接線方向の速度を求めていきます。この過程においては単位に注意しなければなりません。gaia archiveに掲載された視線速度はkm/s、固有運動はmas/yearの単位で記載されているため、単位をそろえる必要があります。

 

中心からの距離に対する動径速度分散分布図は中心から外側にかけてガウス分布を示すような勾配があることがわかります。しかし接線速度分散分布図を見ると、内側から外側にかけて平坦になっているように見えます。もしNGC104が回転運動を行っていれば、中心に近いほど接線速度が速くなるはずですが、平坦な値になるということは、角運動量輸送が起きていると考えられます。また動径速度に対する接線速度の速度空間分布図をみると、動径速度が接線速度よりも発達していることがわかります。

 

動径速度と接線速度の速度分散を使って、球状星団において円軌道、もしくは楕円軌道のどちらが発達しているかを計算することができます。接線速度が動径速度に比べて発達していると円軌道、動径速度が接線速度に比べて強くなるほど、その分だけ楕円度が強くなります。NGC104の速度分散の離心率を求めると、0.86になることが今回わかりました。これはNGC104では回転成分があまりなく、動径方向の速度が大きい楕円軌道を描いて運動していることがわかります。この動径方向の速度が大きい運動によって、中心付近の星と外側の星の重力相互作用が起こり、mass segregation、いわゆる質量による星の住み分けが起こるのでしょう。もし離心率が低ければ、その天体では円軌道が発達していることとなります。円軌道が卓越する天体では、系の進化が十分に進み、実際には中心から熱エネルギーが出続けていますが、平衡状態が保たれていることになるとされています。また速度分散が等方的な場合には離心率が1/3となりますが、今回の結果は速度分散が非等方的であることを示しています。

 

ここで別のグラフを見てみましょう。以下のグラフはx軸に赤経(ra)、y軸に赤緯(dec)、z軸に観測者からそれぞれの星に対する視線速度(km/s)の速度分散をプロットしたものです。赤い点はプラスの値、青い点はマイナスの値を示しており、赤い点は観測者から遠ざかる方向、青い点は観測者の方向に向かっていくことを示しています。

 

 

このグラフを見る限り、青色の点と赤色の点が球状星団内において各場所にばらばらに存在することがわかります。もし球状星団全体が回転していれば、青色から赤色にかけてグラデーションになるように各点が存在するようになりますが、そうはなっていません。このグラフからも、NGC104には回転成分がほとんどなく、動径速度が発達していることがわかります。