ブラックホール

 上のアニメーションはブラックホール中の光の軌道を2次元で表現したものです。

 円の中央から光子が角度0度(つまりx軸方向)に向けて直進しようとした場合に、軌道が曲げられながら円の半径1に近づき、半径1に達すると円の中央に戻っていく様子がわかります。また半径1に近づくにつれて光子の速度が遅くなる様子もわかります。

 

 光は電磁波の一種であり、質量0の光子が波として直進していきます。光は静止している場所、動いている場所、どの場所から見ても速度が一定であるという性質を持っています。これを光速度不変原理と呼びます。どの場所から見ても光の速度が一定になるように一般座標を改定する物理学が特殊相対性理論であり、アインシュタインによって発表されました。特殊相対性理論は、ミンコフスキー空間と呼ばれる空間で表現することができます。ミンコフスキー空間は、3次元空間をx,y座標で表し、z軸に時間軸(ct(光の速度×時間))を設定しています。

 ところで光速度不変原理が成り立つという特殊相対性理論は、上のアニメーションのように光の速度が円周に近づくにつれて遅くなることと矛盾しているように見えます。それは特殊相対性理論においては重力場を考慮していないからです。重力場を組み込んだ一般相対性理論により導いた方程式を使ってシミュレーションした結果が上のアニメーションです。  

 

 一般相対性理論における粒子の軌道方程式は、測地線方程式と呼びます。この測地線方程式と時空間を表現する”計量”(とても簡単にいってしまうと、4次元上の無限小間隔における2点間の距離)を比較し、様々な物理量を計算します。これらの物理量から、アインシュタイン方程式(時空と物質分布を結びつける方程式)を書き下します。そしてこの書き下した式を、様々な過程のもと(空間が球対称であるとか、無限遠で重力ポテンシャルが0になるとか)解き、シュワルツシルド半径と呼ばれるものを導くことができます。シュワルツシルドはドイツの物理学者です。

 

 このシュワルツシルド半径は、この半径上において時間が進まなくなることを示しています。そしてこの半径内の物質は内側から外側に出ていくことが不可能であることを示しています。つまりシュワルツシルド半径はブラックホール天体を予言したのです。

 

 ブラックホールは光ですら外に出ることができません。光は質量0の光子で構成されるため、ニュートン力学では重力が働かないため直進していくにも関わらず、一般相対性理論では重力が働き、光が上のアニメーションのようにシュワルツシルド半径まで達したら、また空間の中央に戻っていくのです。実際には光が重力の影響を受けることが観測されている(重力レンズ)ため、一般相対性理論はニュートン力学で表すことができない、光の物理学を忠実に再現しています。一般相対性理論は物体が光の速度で運動する場合や、とても強い重力場(質量密度が高い)を扱うときに使われる学問です。

 

 シュワルツシルド半径を求める方程式は、「シュワルツシルドの表示」と呼ばれます。シュワルツシルドは一般相対性理論からシュワルツシルド半径を導き出しました。上で述べたようにアインシュタイン方程式を様々な仮定をつけて導くことができます。また別の方法としては、特殊相対性理論の知識を活かしてミンコフスキー空間で物体が重力を受けたときの運動を考慮し、時空間の微小変化を求める方程式と重力ポテンシャルを含んだエネルギー保存式を用いることで、シュワルツシルドの表示を導き出すこともできます。今回のシミュレーションにおいては重力、質量、光速度を全て1として光の軌道を求める方程式をルンゲクッタ法により数値解析しました。 簡単な数値解析ではありますが、ブラックホール中の光子の運動を概観することができるのです。

 

*2017/11/26に更新しました。