サイクロトロン運動

 

 上のアニメーションは、サイクロトロン運動をシミュレーションしたものです。サイクロトロン運動とは、運動する荷電粒子が磁場を通過するときに力を受けて磁場を回転するように運動することをいいます。荷電粒子が磁場を通過するときに受ける力は、”フレミング左手の法則”として中学校で習います。荷電粒子が動く向きから、磁場の向きに向けてねじを右回転させる方向に力が働くのです。この力は電場から受ける力と合わせて”ローレンツ力”と呼ばれ、ローレンツ力を受けた荷電粒子は磁場のまわりを回転するように運動します。

 

ローレンツ力を式で表すと、

 

F = q ( E + v × B )

となります。

 

Fは荷電粒子が受ける力、Eは電場、vは荷電粒子の動く速度、Bは磁束密度です。

 

 上のアニメーションでは、電場が存在せず、単純に3次元で原点から垂直上に向かって一様な磁場があることを仮定して、荷電粒子が位置(0,1,0)からx軸方向(上では目盛りのついていない軸)の方向に荷電粒子を動かし、z軸方向に落下することを仮定しています。つまり斜め45度に荷電粒子が磁場中を通過していく様子をシミュレーションしました。荷電粒子の符号が+のときは右回転しながら落下し、磁場のまわりをぐるぐる回っていきます。荷電粒子の符号がマイナスのときは左回転しながら落下していきます。螺旋階段をかけおりるように荷電粒子が落ちていく様子がわかります。そして荷電粒子は磁場を通過しようとしても、ローレンツ力によって捉えられる様子がわかります。

 

 地球の地磁気は、人体に影響のある宇宙からの荷電粒子を捉えて極地以外の地上に落下することを防ぐ役割をしています。

 

 また最近では原子惑星系円盤の進化を研究する上で、磁気駆動円盤風と呼ばれる機構が注目されています。原子惑星系円盤中の中心付近のガスはケプラーの法則によれば、まわりのガスよりも速く回転するはずなのですが、実際の観測では外側のガスと同じ速度でまわっていることがわかっています。中心に近いガスが外側のガスと同じくらいのゆったりとした回転運動を行っているのはなぜかという問題は、角運動量問題と呼ばれ未だに解決されていません。1つの説として磁気駆動円盤風によって鉛直方向に角運動量が輸送されているというものがあります。この説は以下の通りです。

 まず最初に原子惑星系円盤を貫く磁場が、磁気回転不安定性(MRI)と呼ばれる性質によって乱流になります。その一方で中心星の熱によって生成されたイオンが、他の中性粒子と衝突して一体化することで、上下に伸びた磁場に沿ったサイクロトロン運動を行い、磁場に沿ったガス運動が形成されます。このガス運動が原子惑星系円盤における角運動量を輸送している、ということです。

 

 サイクロトロン運動は原子惑星系円盤の進化を考える上でも重要な物理現象であることがわかります。