6月9日

 

 

 ESA(欧州宇宙機関)のRachana Bhatawdekarを中心とする研究グループは3日、ハッブル宇宙望遠鏡とESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLTを用いてエリダヌス座方向でビッグバン発生後5億年の距離にあるMACSJ0416銀河団を観測し解析した結果、宇宙で最初に起きた星・銀河団の形成が従来考えられていたよりもより早く起きていたことが判明したと発表した。今回の観測領域において星形成の証拠が得られず、銀河団が「宇宙の再電離(*注1)」の時代にある天体であることがわかったことから今回の結論に至ったとしている。

 

 現在の天文学では宇宙で最初に起きた星・銀河団形成がいつ頃なのかを探ることは重要なテーマの1つであり、宇宙で星や銀河団がいつ、どのようにして形成されたのかは未だ謎が残されている。宇宙で最初に作られた星々は種族Ⅲ(*注2)として分類されており、水素やヘリウム、リチウムで作られ、種族Ⅲが作られる前のこれらの星々の中心に存在する場所においてのみ、酸素や窒素、鉄などの重元素が作られると考えられている。

 

 宇宙で最初に起きた星・銀河団形成を観測するためには、重力レンズ効果を利用する必要がある。宇宙再遠方にある星・銀河団の手前に大きな質量を持つ銀河団があることで、手前の銀河が重力レンズ天体となり、その背後にある星・銀河団の光を曲げたり、10から100倍の増光効果をもたらすのである。この曲げられてきた光を観測することで天体を観測することができる。しかしこれまでは重力レンズ天体から曲げられてきた光と、その他の天体からの光を分離することができず、観測天体の質量が過大評価される問題が生じていた。研究チームはこの問題点を改善し、観測天体の正確な質量を見積もる技術を得ることに成功したのである。

 

 研究グループは、宇宙で最初に作られた星・銀河団の形成過程を研究すべく、エリダヌス座方向で、ビッグバンから5億年から10億年の位置に存在する銀河団MACSJ0416をNASAのハッブル宇宙望遠鏡、ESOのVLT望遠鏡を用いて新たな観測技術とともに観測を行い、解析を行った。その結果この領域においては恒星が密に存在しておらず、多くの低質量銀河を見つけることができた。この銀河団は「宇宙の再電離」時代の候補天体になるとしている。Bhatawdekar氏は「これらの結果は銀河団が我々が考えてきたよりも早くに形成されたことを示している。そして低質量銀河が「宇宙の再電離化」時代に重要な影響を与えることを強く示唆している」とコメントしている。

 

 今回の研究結果はハッブル宇宙望遠鏡によって、星・銀河団形成がこれまで考えられてきたよりも早く形成されたことを示したが、今後の観測でもっと早く形成が起きていることを示す根拠が得られるかもしれない。またNASA/ESA/CSAが共同で打ち上げ予定のジェイムズ・ウエッブ望遠鏡が新たな知見をもたらすことが期待される。

 

*注1 宇宙で最初の天体が誕生した後、天体が発する紫外線によって宇宙全体にある中性水素ガスが光電離されること。宇宙の夜明けともいう。宇宙にあるガスは宇宙の晴れ上がり(宇宙年齢37万年、赤方偏移約1090)よりも前には高温による電離状態にあったが、次第に冷えて、その後の宇宙の暗黒時代には中性ガス状態であった。初代星(始原星ともいう)の誕生に始まる星と銀河の形成により再び電離された。

 

*注2 種族Ⅲの星は金属をほとんど含まない宇宙で最初に生まれた初代星であると分類されている。なお種族Ⅰは金属を多く含むものであり、銀河の薄い円盤を構成する恒星である。種族Ⅱは銀河の膨らんだ部分であるバルジと銀河まわりのハローに存在し、球状星団も構成する星である。

 

 

( C ) ESA/Hubble, M. Kornmesser, CC BY 4.0

宇宙初期のイメージ図