6月27日

 

 

 イーモン・オゴーマン氏(アイルランド、ダブリン高等研究所)を中心とする研究グループは16日、アルマ望遠鏡とアメリカの電波望遠鏡カール・G・ジャンスキーVery Large Array (VLA)を使って、さそり座の一等星アンタレスを観測した結果、大気が自身の星の大きさの12倍ほど外側まで広がっている様子を明らかにしたと発表した。また星の温度が3,500℃という「ぬるい」温度であることもわかった。これらの観測結果は恒星から噴き出す巨大な恒星風がどのようにして作られ、どれくらいの物質が放出されるのかを知る手がかりを与えてくれる重要な手掛かりになるとしている。

 

 アンタレスや、オリオン座のベテルギウスは、「赤色超巨星」と呼ばれる種族の星である。赤色超巨星は年老いた巨大な星であり、温度は比較的低温であることで知られている。また星の中心部ではエネルギー源となっていた核融合反応の燃料を使い尽くしつつあり、やがて崩壊し、超新星爆発に至ると考えられている。赤色超巨星の表面からは大量のガスが宇宙空間に流れ出していて、恒星風(こうせいふう)と呼ばれている。恒星風には星で作られたさまざまな重元素が含まれており、生命にとって欠かせない元素となる。よって赤色超巨星からのガス拡散のようすを知ることは、宇宙における生命の材料について研究するうえでも重要ある。

 

 過去の可視光観測においては、アンタレスは太陽の700倍の直径を持っていることが明らかになっていたが、アンタレスの大気や温度がどのようになっているのか謎が残されていた。そのため恒星風がどのような仕組みで放出されているのかも解明されていない。アンタレスは地球にもっとも近い赤色超巨星であるため、アンタレスを詳細に観測することは、恒星風の謎を解くための重要なステップになるのである。

 

 研究チームはアンタレスの構造を解明すべく、アルマ望遠鏡とVLAを用いて観測を行うこととした。アルマ望遠鏡は短い波長の電波(波長0.7mm~3mm)を観測してアンタレス表面近くのようすを描き出すことができる。その一方でVLAは長い波長の電波(波長7mm~10cm)で大気外層部のガスのようすを明らかにすることができる。なお大気はガスとプラズマを含んでいる。観測の結果、アンタレスの周囲のガスは従来考えられていたよりも、もっと広大な領域に広がっていることがわかった。星の姿はどの波長の電磁波で観測するかによって大きく変わるが、VLAが観測した長い波長の電波では、アンタレスのまわりのガスは星自身のおよそ12倍の広がりを持っていることがわかったのである。

 

 また研究チームはアルマ望遠鏡とVLAの観測データから、アンタレスの大気に含まれるガスの温度を測定することとした。特に注目したのは彩層である。彩層は星表面のすぐ上に位置し、ポットのお湯が沸騰してはじけるような、恒星内部から湧き上がってくる対流によって生じる衝撃波や磁場によって加熱されている部分である。アルマ望遠鏡とVLAのデータからは、彩層がアンタレスの半径の2.5倍のところまで広がっていることが明らかになった。太陽の彩層の厚みは太陽の半径の200分の1であるため、アンタレスの彩層がいかに大きなものかがわかる。そして彩層の温度は過去の可視光紫外線観測から推測されていたものよりも低温で、最高でも3500℃であることが判明した。太陽の彩層が約2万℃であることと比較すると、いかに低温であるかがわかる。オゴーマン氏は「アンタレスの彩層は、星としては「ぬるい」温度であることがわかりました。電波望遠鏡は、星の大気に含まれるガスやプラズマの温度を測る精密な温度計として使うことができます。過去の推測と今回の結果が違ったのは、可視光紫外線は非常に高温のガスにだけ感度があるからでしょう。」とコメントしている。また研究チームの一員でもある大仲圭一氏(チリ、カトリカ・デル・ノルテ大学)は「アンタレスやベテルギウスのような赤色超巨星は、不均質な大気を持っています。異なる色のたくさんの点を使った『点描』で星の大気が描かれていると想像してみてください。色は、温度を表しています。ほとんどの点は、電波望遠鏡で観測できるぬるい温度の点ですが、その中に赤外線で観測できるもっと低温の点や紫外線望遠鏡が見ることのできる高温の点が混じっているのです。今のところ、これらの点をひとつひとつ見分けることができませんが、将来的にはぜひ挑戦したいと思っています。」と今後の抱負についてコメントしている。

 

 さらに研究チームは、彩層と恒星風が流れ出す場所をはっきりと見分けることに成功した。VLAの画像(図1)からは、アンタレスから噴き出し、伴星アンタレスBの重力の影響を受けるガスが広がっていることがわかる。

 

 共同研究者のグラハム・ハーパー氏(コロラド大学)は、「私が学生だった頃、こんなデータが欲しいと夢見ていました。恒星大気のサイズと温度を知ることは、巨大な恒星風がどのようにして作られ、どれくらいの物質が放出されるのかを知る手がかりを与えてくれます。」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. O’Gorman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

アルマ望遠鏡とVLAで観測したアンタレスの電波画像。アルマ望遠鏡は短い波長の電波を観測することで、アンタレスの表面付近を調べた。一方でVLAは長い波長の電波を観測し、アンタレスから噴き出す恒星風を捉えた。アンタレスの右側のガスのかたまりの中に、アンタレスの伴星アンタレスBが位置している。