7月4日

 

 

 トリニティカレッジ(アイルランド・ダブリン)のアンドリュー・アラン氏(ポストドクター)を中心とする研究グループは6月30日、2019年にESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(天体望遠鏡)を用いてみずがめ座の方向およそ7500万光年先のキンマン矮小銀河を観測したところ、2001年から2011年にかけて観測されていた高光度青色変光星(こうこうどせいしょくへんこうせい)(*注1)の光が消えて見えなくなっていたことが判明したと発表した。光が見えなくなった原因は、高光度青色変光星の光が弱くなり、ダストに部分的に隠されたためであるとしている。また星が重力崩壊し、スーパーノヴァ現象が起きる前にブラックホールになったがために光が見えなくなった可能性もあり、このことが本当であればとても稀なケースに遭遇したことになるとしている。

 

 キンマン矮小銀河における高光度青色変光星は、2001年から2011年の間に複数の天文学者によって研究されており、進化の最終段階にあることがわかっていた。またX-shooterやUVESと呼ばれるESOの機器による観測データの解析結果として、この変光星が強いアウトバースト(*注2)を起こしている段階であり、2011年より後はその星の生涯を終えると考えられていた。またこの星は太陽の250万倍ほど明るく輝き、変光するタイプの星であることもわかっていた。

 

 今回研究チームはキンマン矮小銀河における高光度青色変光星がどのようにして生涯を終えるかを研究すべく、2019年にESOのVLTを用いて観測を行ったが、高光度青色変光星の光が消えていることがわかった。2001年から2011年にはその姿が捉えられていたため、研究チームはその観測結果と理論モデルを基にして、スーパーノヴァ現象なしでどのようにして星が消えたかに関する2通りの説明を提案した。1つ目は変光星の光がだんだんと弱まり、部分的にダストに隠されたがために見えなくなったとする説である。2つ目はスーパーノヴァ現象が起こらずに重力崩壊してブラックホールになったとする説である。通常はスーパーノヴァ現象が起きてから、巨大な星は死に至り、ブラックホール天体になると考えられていることから、2つ目の説が起きることはとても稀なことである。

 

 高光度青色変光星から発せられていた光がどのようにして消えていったかの謎を解明するためには2025年に打ち上げ予定のELT望遠鏡の観測が待たれる。

 

*注1 光度が非常に高く、表面温度の高い変光星。英語名からLBVと略称されることもある。HR図上で左上方に位置し、大質量星のなかでも特に質量の大きな星が主系列段階を終えた後の進化段階に対応していると考えられている。光度は太陽の30万倍から300万倍に達し、可視光では数時間から数百年で不規則に明るさが変化する。一般に活発な質量放出を示すが、太陽質量程度の物質を一度に噴出する現象がみられることもあり、りゅうこつ座イータ星にみられた1837-60年の増光が有名である。

 

*注2 天体の急激な増光現象をいう。可視光に限らず、電波、X線、ガンマ線放射などの急激な強度の増大も含む。新星、超新星、変光星などで見られる現象である。

 

 

( C ) ESO/L. Calçada

高光度青色変光星が謎の消失をする前にどのように見えていたかを示す想像図。