7月7日

 

 

 

 ESAは6日、ドイツのマックスプランク研究所の天文学者であるジュアン氏が星間ガスの研究で用いている、ハーシェル宇宙望遠鏡とプランク宇宙望遠鏡による星形成現場の画像を公開した。観測対象は太陽から約1500光年離れた、おうし座、へびつかい座、おおかみ座、みなみのかんむり座、カメレオン座、Aquila Rift領域、ペルセウス座、オリオン座にある星雲である。この画像は星形成現場における星間ガス中の磁場の構造も写し出しており、星間ガスが重力と磁場の影響を受けながらフィラメント状にあつまり、フィラメントが分裂して塊状(以下クランプと呼ぶ)に形を変えて、その塊が重力収縮して星が形成される様子が明らかになった。ジュアン氏は2019年にこの観測データを基にしてクランプと磁場の関係性を明らかにした。また磁場はクランプに大量のガスが集まることを防ぐため、画像で捉えられたいくつかの星間ガスにおいては、大質量星が形成される可能性が低いことが示唆されている。

 

 星間ガスはガスとダスト(ちり)で構成されており、星をつくるもととなる。また星間ガス中における磁場がガス圧や乱流、重力と共に星形成に重要な役割を果たすと考えられてきた。この理論を確証に変えるために、ハーシェル宇宙望遠鏡とプランク宇宙望遠鏡は冷たい宇宙の構造やこれらの星間ガスの構造を解明すべく星間ガスの観測を続けてきたが、2013年に寿命を迎えた。しかしこれらの望遠鏡により得られたデータは現在でも解析が続けられており、様々な発見がなされている。

 

 ハーシェル宇宙望遠鏡は遠赤外線とサブミリ波を駆使して、天の川銀河に存在する分子ガスが密に集まってできた、フィラメントを発見した。フィラメントはクランプに分裂し、クランプが重力収縮して星になると考えられている。またプランク宇宙望遠鏡はダストから放出される偏光の方向を捉えることに成功した。この偏光の方向は磁力線の方向と一致する。画像1においてひだのようになった灰色の線が磁力線を示している。

 

 ジュアン氏は2019年にこれらのデータを基にして、星間ガスがどのようにして磁場と相互作用するかを研究すべく視線速度毎の分子ガス密度を測定した。その結果として磁場の方向に動く星間ガスが集まり(この動きは後にコンベアベルトとなる)、クランプとなることがわかった。これは画像中ではフィラメントに垂直な1本の筋として見える。そしてこのクランプにおいて、磁力線に沿って星間ガスが集まり続け、重力収縮をし、新しい星が生まれると結論付けた。

 

 今回の画像ではフィラメントに垂直に磁場が存在していることがわかったが、星間ガスが密に集まった場所においては、磁場が平行から垂直に変わる可能性があることも考えられている(先行研究では密度の高いフィラメントは磁場に対して垂直であるのに対して、密度の低いフィラメントは磁場が平行になるとされている)。またフィラメントと磁場の関係が、星形成率に影響を及ぼすかどうかもまだよくわかっていない。研究チームはこの謎を解明すべく研究を続けている。

 

 

図1 オリオンA星雲における星間ガスと磁場の構造

( C ) ESA/Herschel/Planck; J. D. Soler, MPIA

 

オリオンA星雲は地球から約1,350光年離れた場所にあるとても重量のある星雲である。この星雲は太陽を何万個も作り出すことのできる多くの物質、質量がある。ここではハーシェル宇宙望遠鏡によって遠赤外線、サブミリ波で捉えられたガスから放出される光を示している。またひだのようになっている灰色の線は、プランク宇宙望遠鏡によって捉えられたガスから放出される偏光の方向を示している。この偏光の線は磁力線と一致している。