8月1日

 

 

 メキシコ国立自治大学のダニー・ペイジ氏(天体物理学者)、イギリス・カーディフ大学のフィル・シーガン氏と松浦美香子氏を中心とする2つの国際研究チームは7月30日、アルマ望遠鏡を使った観測と理論研究によって1987年に出現した超新星爆発現象1987Aが起きた場所でこれまでで最も若い中性子星が作られた可能性があることを発見したと発表した。中性子星は、超高温超高密度の天体であり、直径は25キロメートルほどと考えられている。また重さは、ティースプーン1杯分でニューヨーク市のすべてのビルを合わせたほどになる。超新星1987Aによって中性子星が生まれたとすれば、これまでに観測された中で最も若い、年齢が約330歳である超新星残骸「カシオペアA」よりもはるかに若い、わずか33歳の中性子星を発見したことになる。

 

 超新星爆発現象1987Aは、1987年2月に地球から16万光年離れたところにある、矮小銀河の大マゼラン雲で起きた。理論的には、超新星爆発のあとに中性子星が残されると考えられている。日本の実験装置カミオカンデがこの超新星爆発で生じたニュートリノを検出したことから、ブラックホールではなく中性子星が作られたのは確かなはずであるとされている。このため超新星1987Aの出現以降に多くの研究者が実際に中性子星が生まれたかどうかを探るべく、研究・観測が行われてきた。これまでにその確かな証拠は得られていないが、超新星1987Aが発生した場所に中性子星が存在する証拠となる塵(ちり)が存在することは、アルマ望遠鏡により2014年に明らかになっていた。

 

 今回イギリス・カーディフ大学のフィル・シーガン氏と松浦美香子氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、2014年に発見された1987Aの場所における塵をより高い解像度で観測した。その結果、超新星1987Aが起きた場所の中心近くに周囲よりも温度の高い塵のあつまりが存在することを明らかにした。その場所は、中性子星が存在すると想定される場所と一致している。しかしその一方で中性子星にしては明るすぎるのではないかという疑問が挙げられた。

 

 この疑問を解決したのが、ペイジ氏らを中心とする研究チームである。ペイジ氏らは中性子星によって塵のかたまりが加熱されているということを理論的研究から示唆していた。ペイジ氏らが提唱した理論的予測は、中性子星の位置と温度に関するものである。超新星爆発のシミュレーションでは、超新星爆発によって中性子星が秒速数百キロメートルもの速度ではじき出されることが予測されている。アルマ望遠鏡が発見した温かい塵のかたまりは、周囲のリングの中心よりもわずかにずれた位置にあり、爆発から30年あまりのうちに中性子星が高速で移動したという予測と合致する。温度に関しては、超新星爆発から間もない時期の中性子星の温度は500万度と予測されており、観測で推測される塵の温度を説明するには十分である。今回の観測についてペイジ氏は「超新星爆発は複雑な現象で中性子星の内部も極限的な状況ですが、温かい塵のあつまりが検出されたことは、いくつかの理論的予測の正しさを証明するものです。」とコメントしている。また今回の観測によって存在が示唆された中性子星がパルサーやブラックホール天体ではないことも証明された。パルサーは強い磁場を持ち、高速回転する天体であるが、今回の観測データからはその兆候が見られていない。また観測された天体中心の光が強いことと、ニュートリノが検出されていることから、ブラックホールではないこともわかった。

 

 今回の研究結果が正しいかどうかは、中性子星そのものを直接観測することによって証明されることが期待されている。しかし、現在は超新星残骸の塵やガスにおおわれて、そのものを見ることができない。塵やガスが晴れ上がるまでには、まだ数十年かかると考えられている。

 

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), P. Cigan and R. Indebetouw; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton; NASA/ESA

アルマ望遠鏡による超高解像度観測で発見された、周囲より温度の高い塵のあつまり(左)。右図の赤色は、アルマ望遠鏡が電波で捉えた冷たいガスと塵の分布。緑色はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した可視光、青色はチャンドラX線望遠鏡が捉えたX線の広がりを示していて、リング状の構造は、超新星爆発によって生じた衝撃波が宇宙空間を進み、周囲の物質と衝突しながら広がっているようすを示している。