8月8日

 

 

 オーストラリア・シドニー大学のチェン・ワン氏(ポストドクター)を中心とする国際研究チームは7月30日、アングロオーストラリア望遠鏡を用いて天の川銀河のふちにある球状星団“フェニックス・ストリーム”(いわゆる恒星流(*注1))を観測し化学組成を解析した結果、他の球状星団に比べて重元素が少ないことが判明したと発表した。フェニックス・ストリームは20億年以上も前に銀河潮汐力によってばらばらになった天体であり、同じようなタイプの球状星団は他に観測されていない。古代において存在した構造を保持しているため、初期宇宙の環境を探るうえで重要な手掛かりになる。

 

 球状星団は、約100万個もの星が自己重力によって球状に集まった天体である。天の川銀河外側のハローに約150個存在し、古くから存在していた天体であると考えられている。そもそも星は宇宙にある水素やヘリウムが集まってできたガス球であり、何十億年も前に誕生した。そして星の中では重力収縮していき、カルシウムや酸素などの重元素が作られてきた。これまでの観測によって、通常球状星団は重元素に富んでいると考えられている。重元素のない環境では球状星団は作られていないはずであるというのが定説である。

 

 研究チームはアングロオーストラリア望遠鏡を用いて、球状星団の残骸であると考えられている、ほうおう座(南天の星座)にある恒星流(フェニックス・ストリーム)のスピードを測ることを目的としていた。ワン氏は「私達はどの星がどの恒星流に属しているかは知っており、恒星流において水素やヘリウムよりも重い化学元素がどれくらい富んでいるかを計測していた。この観測データは何人かの天文学者が参照しに来ており、フェニックス・ストリームが重元素に富んでいないことを知ったときとても驚いた。なぜならば他の球状星団では重元素に富んでおり、違う構造を持っているからである」とコメントしており、今回の研究結果が驚くべき結果であることを伝えている。さらに「フェニックスストリームは20億年以上も前にばらばらにされた球状星団であるが、この星の構造から初期宇宙の形成過程を探ることができる」と今後の期待についても述べている。

 

 フェニックス・ストリームは他の球状星団と比べて、重元素が少ないという事実について、共同研究者であるティング・リー氏(カーネギー天文台)は「フェニックスストリームは他の球状星団と比較して、水平方向について異なる環境を持つ球状星団であったがために重元素が少ないということで一定の説明がつく」とコメントしている。またこのようなタイプの球状星団が銀河潮汐力によってばらばらにくだかれ、銀河に吸収されていったのではないかとしている。

 

 フェニックス・ストリームの素となる球状星団がどのような環境で育ち、進化してきたかは謎がまだ多く残されている。共同研究者のゲライント・ルイス氏(シドニー大学教授)は、「銀河と球状星団がどのように形成されてきたかについて多くの疑問が残されており、やるべき仕事がたくさんあるが、とても興味深いことである」と今後の意気込みについてコメントしている。ティング・リー氏は、「似たような恒星流を多く見つけることで、私達に新たな知見をもたらす」とコメントしている。

 

*注1 天の川銀河と小さな銀河が作用した際に形成された星の流れのこと。小銀河が天の川銀河の近くにやってくると、天の川銀河の重力によって小銀河内の星が引き出され、それが恒星流となって宇宙空間に広がると考えられている。恒星流は宇宙地図作成プロジェクト「スローン・デジタル・スカイサーベイ」やダークエネルギーの性質に迫るための掃天観測「ダークエネルギー・サーベイ(DES)のデータなどから、これまでに30本ほどが発見されている。

 

 

 

( C ) James Josephides, Swinburne Astronomy

左側の画像は天の川銀河を覆う、銀河潮汐力によってばらばらになったフェニックスストリームのイメージ図である。右側の画像は今回化学組成の分析対象となった赤色巨星のイメージ図である。