8月15日

 

 

 マックスプランク天体物理学研究所の大学院生フランチェスカ・リッツォ氏を中心とする国際研究チームは12日、とけい座方向124億光年離れた場所にあるSPT0418-47銀河の観測データ(2017年7月5日にアルマ望遠鏡により観測)を解析した結果、この銀河が私たちが住む天の川銀河によく似た銀河であることが判明したと発表した。宇宙初期のすべての銀河の内部ではガスが激しく乱れ動いていて不安定であると理論的に予想されていたが、この銀河に含まれるガスは研究者たちも驚くほど秩序だった動きをした。この発見は、銀河の誕生に関わる常識を覆すものであり、私たちが住む宇宙の過去の姿に新たな視点を与えるものであるとしている。

 

 SPT0418-47のような遠方にある銀河を研究することは、銀河がどのように生まれ、どのように進化してきたかを理解するためにとても重要である。この銀河から出た光が地球に届くまでには約124億年かかるため、宇宙が生まれてから14億年たったころの姿を現しているということになる。これは、宇宙が現在の年齢(138億歳)のおよそ10%だった時代に相当し、生まれたばかりの銀河がまさに成長していく時代にあたる。初期宇宙では銀河はまだ成長の途中であり、ガスの動きは混とんとしていて、天の川銀河のような成熟した銀河に見られる構造はまだ作られていないと考えられていた。

 

 これらの銀河は大変遠くにあるので、地球上でもっとも強力な望遠鏡をもってしても、その詳しい様子を描き出すことは大変困難である。この難題に対して、研究チームは「天然の望遠鏡」を活用することで解決策を見出した。観測対象天体と私たちの間にある別の銀河の重力によって空間がゆがみ、電波の通り道が曲げられる「重力レンズ」現象である。これによって遠くの銀河が大きく拡大され、アルマ望遠鏡の高い解像度と相まって、銀河の詳しい様子を調べることが可能になった。

 

 国際研究チームは初期宇宙の銀河の形成過程を研究すべく、今回の観測・解析を行った。その結果SPT0418-47は渦巻き腕は無いが、天の川銀河に典型的な回転する円盤と、銀河中心部の星の集まりである「バルジ」を持っていることがわかった。なお重力レンズ効果を受けた銀河SPT0418-47は、地球から見るとほぼ完全なリング状の姿となっている(図1)。また研究チームは、最新のコンピュータモデリングによって重力レンズ効果を注意深く補正することで、SPT0418-47の真の姿を再構築し、その中でのガスの運動を調べた(図2)。その結果、従来では初期宇宙におけるガスの動きは混とんとしていただろうという予測されていたのに反して、非常に整った回転運動をしていることがわかった。「再構築されたSPT0418-47の姿を初めて見た時、とても信じられませんでした。宝箱をあけたような気持になりました。」とリッツォ氏はコメントしている。「私たちが見たものは、謎に満ちていました。この銀河の中では星が盛んに作られていて、とても活発な状態にあります。それなのに、初期宇宙ではこれまでに見たこともないほど整った姿をしていたのです。この結果はまったくの予想外で、銀河の進化を理解するうえでとても重要な示唆を与えてくれます。」と、共同研究者のシモーナ・ヴェジティ氏(マックスプランク天体物理学研究所)はコメントしている。また研究チームは、SPT0418-47が円盤構造を持っていて現在の宇宙に存在する渦巻銀河に似た特徴を示しているが、その進化の先では天の川銀河とはまったく違う、楕円銀河に進化するだろうと考えている。

 

 今回の発見は、「初期宇宙の銀河はかき乱されて混とんとした状態にある」というこれまでの研究者の推測が必ずしも正しくないことを示しており、また秩序だった銀河が宇宙初期にどのように作られるのかという大きな疑問を提示するものとなった。なおアルマ望遠鏡の観測からは、2020年5月にも初期宇宙に存在する回転銀河が発見されている。

 

 今後の研究では、これらの秩序だった若い銀河が普遍的なものなのかどうかを調べることで、銀河進化研究の新たな扉が開かれることが期待されている。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.

アルマ望遠鏡が観測した、124億光年彼方にある銀河SPT0418-47。この銀河と地球の間に位置する別の銀河の重力によって電波の通り道が曲げられ、リング状に見えている。

 

 

図2 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.

SPT0418-47におけるガスの動きを示した図(左は観測画像、右は観測画像をもとに重力レンズ効果を補正して再構築した銀河の実際の姿)。私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示している。右側の図でわかるように、SPT0418-47はきれいな円盤銀河で、非常に整った回転をしていることがわかる。