8月28日

 

 

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のジョン・シルバーマン准教授を中心とする国際共同研究チームは26日、すばる望遠鏡に搭載された HSC で過去に撮影された画像を解析した結果、3つの二重クェーサーを特定することに成功したと発表した。このうちの2つは新たに判明したものである。二重クェーサーは、銀河が合体する過程でそれぞれの銀河中心にある超大質量ブラックホールが明るく輝いているものであり、これを詳しく調べることで、銀河の合体や進化、超大質量ブラックホールの成長過程などの研究が進むことが期待されるとしている。

 

 宇宙では、銀河同士が衝突し合体するダイナミックな現象が頻発している。銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から数十億倍にも及ぶ超大質量ブラックホールが存在し、そこに大量のガスが流入すると銀河全体よりも明るく輝くクェーサーとして観測される。銀河が衝突・合体する時にはガスの流入量が特に多くなり、2つのブラックホールが二重クェーサーとなる姿が見られると期待されるが、2つのクェーサーが同時に輝く期間は短く、また見つけるためには、広い観測領域と近接した2点を分解できる高い解像度との両方が必要であるため、多くの二重クェーサーを見つけて研究を進めることは困難であった。

 

 研究チームは今回3つの二重クェーサーを特定することに成功したが、そもそも明るいクェーサーがどういった種類の銀河に存在する傾向にあるかを画像を使って調べる研究を行っていた。その研究途中において、銀河中心に点光源が1つしかないと思っていた場所に、2つ点光源がある場合が見つかり始めたわけである。そこで二重クェーサーを特定することを目指し始め、まずはすばる望遠鏡に搭載された HSC で撮影された画像の中から既知の 34,476 個のクェーサーを調べ、その中から2つもしくはそれ以上の点光源を持っているとみられる天体を 421個選び出した。この候補天体をケック望遠鏡とジェミニ北望遠鏡による分光追観測を実施した結果、3つの二重クェーサーを特定することに成功した。また特定された二重クェーサーでは、超大質量ブラックホールの影響でガスが毎秒数千キロメートルで移動している兆候が、ペアとなるそれぞれの天体で見られた。

 

 さらに研究チームは今回の観測結果から、全クェーサーのうち 0.3 パーセントは、銀河の合体の過程で超大質量ブラックホールが2つ存在していると推定した。この割合の低さは、二重クェーサーの希少性と、これまでの探索でほとんど発見されなかった理由を示すものである。これについて研究チームのメンバーの一人である東京大学大学院生のShenli Tang氏は「その珍しさにも関わらず、この事例は銀河進化の重要な段階を示しており、中心の超大質量ブラックホールが銀河の合体によって目覚めて質量を増していき、ブラックホールが属する銀河 (ホスト銀河)の成長にも影響を与える可能性がある」とコメントしている。

 

 今後も研究チームでは二重クェーサーの特定を続け、銀河や超大質量ブラックホールの合体や進化について理解を深めることを目指している。

 

 

( C ) Silverman et al.

今回見つかった二重クェーサーの1つ「SDSS J141637.44+003352.2」。私たちから おとめ座方向47 億光年の距離にあり、2つのクェーサー同士は 13,000 光年離れている。それぞれのクエーサーに存在するとみられる超大質量ブラックホールの質量は、どちらも太陽の約1億倍と考えられている。