9月9日

 

 

 カナダ・ビクトリア大学のジャーチン・ビー氏、工学院大学の武藤恭之氏らの研究チームは4日、アルマ望遠鏡を用いて若い3連星オリオン座GW星を観測した結果、周囲に3連の塵のリングが存在していることを明らかにしたと発表した。もっとも外側のリングの半径はおよそ340天文単位であり、原始惑星系円盤の中で発見されたリングとしては観測史上最大のものである。また、それぞれのリングには巨大惑星の種になるのに十分な量の塵が含まれていることや、中心の3連星の軌道面と3本のリングは同一平面上に無く、特に最も内側のリングが大きく傾いていることが明らかになった。3連星の重力だけ傾いたリングを作ることはできないと研究チームは考えており、リングの間に惑星などの天体がすでに存在している可能性を指摘している。

 

 天の川銀河の星の過半数は2個以上の星が互いに回りあう「連星系」として生まれることが知られている。これまでに4000個以上が発見されている太陽系外惑星において連星を持つものはいくつも存在していることがわかっているが、3連星の周囲を回る惑星はまだ発見されていない。また3連星は恒星同士の重力相互作用などの物理的法則が複雑となり、星周環境についての理解が困難である。なお惑星については、若い星のまわりを取り巻いていた塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)の中で作られる。つまり、連星系のまわりの原始惑星系円盤を調べることは、連星系周囲での惑星の形成について理解することにもつながる。

 

 今回観測対象となったオリオン座GW星は、地球から約1300光年の場所にある。オリオン座GW星は、1天文単位(地球と太陽の間の平均距離に相当)の間隔で互いに回りあうA星とB星、そこから8天文単位離れた場所を回るC星からなる。これまでの観測で、これら3つの星を取り囲む大きな原始惑星系円盤があることが知られていた。

 

 研究チームは、オリオン座GW星の原始惑星系円盤の構造を調べるべく、アルマ望遠鏡による観測を行った。その結果、オリオン座GW星を取り巻く原始惑星系円盤は3本のリングでできていることがわかった(図1)。リングの半径は、内側から46天文単位、188天文単位、338天文単位であることが判明。太陽系でもっとも外側の惑星である海王星の軌道半径が30天文単位であることと比べると、オリオン座GW星の原始惑星系円盤が星からいかに遠い場所にあるかがわかる。これまで数多くの原始惑星系円盤にリング構造が見つかっているが、オリオン座GW星のもっとも外側のリングは、これまで発見された中でももっとも巨大なリングとなった。

 

 さらに研究チームは、それぞれのリングの電波強度から、リングに含まれる塵の質量も導き出した。その質量は、内側のリングから順にそれぞれ地球質量の75倍、170倍、245倍と見積もられた。研究チームの武藤恭之氏は「リングの質量は、巨大惑星の種をオリオン座 GW 星の周囲に作るのに十分な量であると考えられます。」とコメントしている。3本のリングをさらにくわしく分析したところ、中心の3連星の軌道面と比べてリングは3本とも大きく傾いていることも明らかになった。特に、もっとも内側のリングは他の2本のリングとは大きく異なった傾きを持っていた。ビー氏は、「内側のリングがこれほど傾いていることがわかったときには非常におどろきましたが、アルマ望遠鏡で同時に観測した円盤内のガスのデータでも、円盤の内側がねじれていることが確認できました。」とコメントしている。

 

 また今回の観測データについて理論的な裏付けを進めるために、研究チームは3連星が原始惑星系円盤にどのような重力的影響を与えるかを調べることとし、シミュレーションを行った。その結果、3連星の重力だけでは内側のリングの大きな傾きを再現することができなかった。研究チームは円盤内に惑星が存在する可能性を指摘しており、ビクトリア大学のニンケ・ファン・デル・マレル氏は「惑星によって円盤にすき間が作られ、内側のリングと外側のリングが作られたのかもしれません。」とコメントしている。

 

 今後の期待として武藤氏は「連星の周囲で惑星形成がどのように起こるかという問題は永く議論されてきましたが、今回の観測によって、3連星というより複雑な系における惑星形成を観測に基づいて調べる道筋が切り拓かれました。今後、系外惑星の多様性の研究がますます進展していくでしょう。」とコメントしている。

 

 オリオン座GW星の観測研究は他のグループも行っている。イギリス・エクセター大学のステファン・クラウス氏らを中心とする別の研究チームはアルマ望遠鏡と欧州南天天文台の光学赤外線望遠鏡VLTを使って同じくオリオン座GW星を観測した。その結果近赤外線観測では、最も内側のリングの影が外側に伸びていることが初めて見出された(図2)。これは、内側のリングが大きく傾いていることを裏付ける結果といえる。また、クラウス氏らのチームもリングの形成に関するシミュレーション研究を行い、大きく傾いたリングが3連星の重力だけでも作られうるとしている。リングの成因について、ビー氏らとクラウス氏らは異なる説を提唱していることになるが、まだ決着はついておらず、議論は続いている。いずれにしても、オリオン座GW星は連星のまわりの複雑な環境下における惑星形成を理解するための、重要なサンプルである。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Bi et al., NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

アルマ望遠鏡が観測した若い星オリオン座GW星のまわりの原始惑星系円盤。3本のリング状構造がはっきりと写し出されている。もっとも内側のリングはほぼ円形に見える一方、外側の2本のリングは縦に伸びた楕円に見えまる。リングが実際は円形に近いと仮定すると、内側のリングはほぼ正面から、外側の2本のリングはやや斜めの角度から見ていると考えられ、リングの傾きが異なることがわかる。この画像には写っていないが、中心に若い3連星がある。

 

 

図2 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ESO/Exeter/Kraus et al.

アルマ望遠鏡とVLTで観測したオリオン座GW星のまわりの原始惑星系円盤。アルマ望遠鏡が観測した塵の分布を青、VLTが観測した近赤外線をオレンジ色で示している。中心から左下と上の方向に黒い筋がのびており、これが内側のリングの影であると考えられている。