9月26日

 

 

 国立天文台の田中圭特任研究員、理化学研究所のイーチェン・チャン基礎科学特別研究員らの研究チームは25日、さそり座の方向およそ9,500光年に位置する2つの大質量原始星IRAS 16547-4247をアルマ望遠鏡により観測・解析を行った結果、2つのガス円盤が逆回転する様子が明らかになったと発表した。この研究結果は、それぞれの原始星が最初は少し離れた場所にあった別々のガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだことを示唆している。なお電波解析を行う上では、それぞれの原始星を囲むガス円盤の中に含まれる塵が砕かれて飛び出した塩化ナトリウムや、高温に加熱された水蒸気分子から放たれる電波を解析した。食塩の主成分でもある塩化ナトリウムが大質量原始星を取り巻くガス円盤で検出されたのはこれが2例目であり、今回の発見は塩化ナトリウムや高温の水蒸気が放つ電波が大質量星の誕生を探るうえで重要な手掛かりになることも示した。

 

 大質量星は強烈な光を放ち、一生の最後には超新星爆発を起こして周囲の宇宙環境に大きな影響を与える。よって大質量星の形成メカニズムを理解することで、さまざまな宇宙現象を理解することができると考えられる。特に生まれたばかりの星が周囲からどのように物質を取り込んで大質量星に成長していくのかを理解することが重要であるとされている。小質量星の場合は、生まれたばかりの原始星の周囲をガスの円盤が取り巻いていて、原始星の重力によって引き付けられた物質はいったん円盤に滞留し、さらに原始星へと流れ込んでいくという過程が明らかになっている。大質量星も同じような過程を経ると考えられているが、大質量原始星の周囲のガス円盤の観測は十分にできていない。観測不十分の理由は、大質量星は小質量の星に比べて数が少なく、誕生現場が地球から遠くにあるためである。また大質量原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し複雑な分布をしていて、ガス円盤を見分けるのが困難であることも理由の一つである。

 

 研究チームは、大質量原始星の謎を解明すべく、アルマ望遠鏡を用いて“大質量原始連星”IRAS 16547-4247を観測した。この天体は地球から見るとさそり座の方向におよそ9,500光年の場所にあり、太陽の1000倍もの質量を持つ巨大なガスの雲の中に深く埋れている。IRAS 16547-4247は2つの原始星からなる「連星系」であることが知られており、その合計質量は太陽の25倍と見積もられている。実際に観測を行った結果、原始連星IRAS 16547-4247の周囲にあるさまざまな分子が放つ電波をとらえることに成功した。そして、分子によって分布が大きく異なることを明らかにした。有機分子シアン化メチル(CH3CN)や二酸化硫黄(SO2)といった大質量原始星観測でよく調べられる分子は、2つの原始星を大きく取り巻く領域から検出されたが、原始星近くの様子を調べるのには適していなかった。一方で、それぞれの原始星の近傍からは高温の水蒸気(H2O)や、塩化ナトリウム(NaCl)、一酸化ケイ素(SiO)の分子が放つ電波が検出されたのである。これらの電波を解析することで、(1)連星系を取り巻く大きなガス円盤、(2)それぞれの大質量原始星を囲む2つの小さなガス円盤、(3)そこから噴出するアウトフローとジェットといった、原始連星IRAS 16547-4247の詳細な姿が浮かびあがった。

 

 さらに研究チームは、個々の大質量原始星を取り巻く2つの円盤が互いに逆方向に回転している兆候を見つけた。2つの星からなる連星系が1つの巨大なガス円盤の分裂から誕生した「双子」だとすれば、個々の原始星円盤は同じ方向に回転するはずである。「もし本当にふたつの円盤が逆回転しているとしたら、それぞれの原始星は少し離れた場所にあった別々のガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだ可能性があります。つまりIRAS 16547-4247は本当の双子ではなく、となりあって生まれた他人だったのかもしれません。」と研究チームのイーチェン・チャン氏はコメントしている。

 

 今回、高温に熱された水蒸気や、塵が砕かれることで飛び出したと考えられる塩化ナトリウムが検出されたことで、大質量原始星を育むガス円盤の熱くダイナミックな姿が明らかになってきた。今まさに検討が進む次世代超大型電波干渉計(ngVLA )(アメリカ国立電波天文台が中心になって検討を進めている)は、塩化ナトリウムのような塵の破壊で飛び出す分子が放つ電波を観測するのに適した性能を持っている。そのため「熱い円盤」に含まれる分子の観測は今後ますます発展し、大質量星の誕生メカニズムの解明につながることが期待される。また、46億年前に私たちの太陽系を生んだ原始太陽系円盤でも、塵が蒸発するような高温を経験したことが隕石に含まれる様々な証拠から知られている。今後塩化ナトリウムと高温の水などを手掛かりに「熱い円盤」の観測を進めることで、太陽系誕生時の様子を探るヒントを得られるかもしれない。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tanaka et al.

アルマ望遠鏡が撮影した原始連星IRAS 16547-4247の周囲の構造。塵が放つ電波を黄色、シアン化メチル(CH3CN)が放つ電波を赤色、塩化ナトリウム(NaCl)が放つ電波を緑色、水蒸気(H2O)が放つ電波を青色で合成しており、画像下にはそれぞれの中心部の様子をクローズアップした様子を示している。塵とシアン化メチルが原始連星を大きく取り巻くように広がっているのに比べて、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星のまわりに集中して存在していることがわかる。全体画像で原始星の上側には、原始星から放たれるジェットからの電波を水色で合成している。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

観測成果をもとに描いた原始連星IRAS 16547-4247の周囲の想像図。連星を成す個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。原始星からは漏斗状にガスが噴き出している他、右側の原始星からは細く絞られたジェットが吹き出していて、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている。