10月3日

 

 

 イタリアの国立天体物理学研究所(ボローニャ)のマルコ・ミニョーリ氏(天文学者)を中心とする研究グループは1日、ビッグバンが起こり宇宙が生まれてから9億年経った時代の距離にあるSDSS J1030+0524と呼ばれるクウェーサー天体をVLT望遠鏡によって観測した結果、天体まわりに太陽質量のおよそ10億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在し、さらにそのまわりにおいて、6つの銀河を発見することに成功したと発表した。9億年というビッグバンが始まって間もないときにおける銀河を発見したのは今回が初めてであり、我々が住む天の川銀河の中心にも存在するとされる超巨大ブラックホールがどのように形成され、成長してきたかを理解するうえで重要な観測成果であるとしている。また今回の観測成果は、ブラックホールがガスで構成される“宇宙のクモの巣”構造の中で素早く成長することができるという理論を支持するものにもなった。

 

 これまで宇宙初期におけるブラックホールは、恒星の重力崩壊によって生まれて、速いスピードで太陽の10億倍の質量にもなる超巨大ブラックホールに成長し、銀河を形成していくと考えられてきた。しかしブラックホールが短時間において大きな質量を持つブラックホールになるのに必要なガス燃料がどのようにして調達されるのかは大きな謎とされていた。

 

 今回研究チームはVLT望遠鏡による観測によって超巨大ブラックホールまわりに存在するいくつかの銀河について新しい成果を求めることを目標とした。実際にSDSS J1030+0524クウェーサー天体の観測を行った結果、そのまわりに存在する超巨大ブラックホールは、天の川銀河の300倍もの大きさになるガスで構成された“宇宙のクモの巣”とも呼ばれる構造中に存在することがわかった。クモの糸それぞれはフィラメントと呼ばれ、このフィラメントが交差する場所に銀河が存在し、成長している。そしてフィラメントに沿って流れてくるガスが銀河と超巨大ブラックホールを成長するための燃料となっているのである。

 

 しかしこの“宇宙のクモの巣”がどのようにして形成されたかという疑問はまだ解決されていない。天文学者はこの謎を解決するにはダークマターハロー(ダークマターが自己重力で集まった塊)が鍵を握るとしている。ダークマターハローが大量のガスを集めて宇宙のクモの巣を形成し、銀河とブラックホールが進化していくと考えられている。

 

 研究チームの一人であるアメリカ・ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンズ大学のコリン・ノーマン氏は「今回の観測成果は宇宙初期のブラックホールが宇宙のクモの巣を形成するダークマターハロー中で成長するという考え方を支持するものとなった。しかし観測的制限から、宇宙が誕生してから早い段階において、クモの巣がどのようにして形成されたかを観測することができていない。」と今後の課題についてコメントしている。この課題を解決するためにはチリで建設が進んでいるELT望遠鏡が、宇宙初期の多くの銀河や巨大ブラックホールを観測することで解決されると研究チームは期待している。

 

 

( C ) ESO/L. Calçada

SDSS J1030+0524クウェーサー天体まわりに存在する超巨大ブラックホールと宇宙のクモの巣に存在する銀河のイメージ図。超巨大ブラックホールまわりにクウェーサー天体が存在し、まわりの物質を巻き込むことで光り輝いている。