10月8日

 

 

 ヨーロッパ南天天文台のヨハンナ・ハートキー氏を中心とする研究チームは7日、M105 (NGC 3379) 楕円銀河の周りに存在する惑星状星雲をすばる望遠鏡とウィリアム・ハーシェル望遠鏡によって観測した結果、低金属量の古い星々が惑星状星雲の分布と同じように銀河周りに広く散らばっていることが明らかになったと発表した。銀河の重力から解放されたかのように散らばるこれらの星々は、銀河の小さな構造の合体が繰り返されて、銀河群が形成されたことを示す重要な証拠になるとしている。また惑星状星雲の運動の解析結果とダークマター分布の力学モデルを比較することによって、ダークマター分布図を作成することにつながると、今後の期待を寄せている。

 

 宇宙の中で銀河が孤立して存在することはまれであり、ほとんどの場合、銀河群や、銀河団という階層構造の一部として存在する。宇宙の標準モデルでは、最初に小さな構造が形成され、それらが集合してより大きな銀河や銀河群が形成されたと考えられている。この場合、銀河と銀河の間にも星々が取り残されると考えられる。そこで、観測によって、銀河同士の隙間に散らばった星々を探し、それらがいつ生まれたのか明らかにすることが重要になる。

 

 研究チームは銀河間における星々の構造を探るべく、しし座の銀河群 Leo I に注目することとした。Leo I は、楕円銀河、渦巻銀河、矮小銀河とすべてのタイプの銀河を含む銀河群としては、私たちから最も近くにあり (距離 3300 万光年)、中心に M105 (NGC 3379)という楕円銀河がある。またLeo I の隙間に散らばる星々を調べる目印として、研究チームは惑星状星雲を利用することとした。惑星状星雲は私たちの太陽のような星の晩年の姿である。星の中心部がむき出しになり、放出された外層のガスは星雲として、アクアマリンの色合いで輝くとされている。これは波長 500.7 ナノメートルの酸素原子の輝線によるものであり、地球大気で見られるオーロラと同じ色合いである。終末期の星がまとった明るい星雲の輝きが M105 の周囲を探査するための目印となる。

 

 実際にM105をすばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) と、ウィリアム・ハーシェル望遠鏡に取りつけられた分光器 Planetary Nebula Spectrograph (PN.S)で観測した結果、 M105 の中心から 16 万光年も離れた領域にまで惑星状星雲が分布していることが明らかになった(図1)。これは、M105 の有効半径 (*注1) の 18 倍に相当する広がりで、可視光の広帯域フィルターで観測される光の広がりから推定した通常の星の分布に比べると、明らかに大きな広がりであるとしている。つまり、M105 の外側では年老いた星が際だって多く存在しているということになる。惑星状星雲の前身である赤色巨星 (*注2)についての過去の観測と比較した結果、金属量が非常に少ない古い星は、惑星状星雲と同じ分布傾向を示していた。過去に赤色巨星の分布が調べられたのは、銀河の周辺の狭い範囲に限られていたが、今回の結果から M105 外縁部では惑星状星雲と同じく金属量が非常に少ない古い星が銀河の周辺に広く分布していると研究チームは結論づけた。

 

 今回の観測結果は、楕円銀河外縁部での惑星状星雲の分布と低金属星の関連を初めて明らかにしたという点で画期的な成果である。これらの古い星々からの光は、M105 の明るさのたった4%であるが、その広がりは銀河の大きさの 18 倍にまでおよんでおり、ダークマターの質量や構造に制限をつけるのにも格好の材料となる。研究チームは、今後、広範囲に分布する惑星状星雲の運動を測定し、ダークマターの分布を仮定した力学モデルと比較することによって、例えば、ダークマターが一つの大きな塊としてか、あるいは複数の小さな塊として存在するのかということまで区別できるだろうと期待している。

 

 

 

図1 ( C ) J. Hartke (ESO)

(左) 観測された惑星状星雲の分布。すばる望遠鏡とウィリアム・ハーシェル望遠鏡で観測された惑星状星雲がそれぞれ青の丸と赤のクロスで示されている。背景はデジタイズド・スカイサーベイの画像で、M105(中央)や NGC 3384(左上)などの銀河が写っている。(右)Suprime-Cam 画像のうち、観測領域の一部を示したもの。惑星状星雲を見つけるために、酸素原子の輝線に相当する狭帯域フィルター(上)と V バンドフィルター(下)が用いられた。

 

*注1 有効半径は、銀河の典型的な大きさを表す指標で、銀河の表面輝度の半分を含む半径として定義される。

 

*注2 太陽のような星は、進化が進むと膨張し、明るく輝く段階を迎える。このような星は赤色巨星とよばれる。色-等級図上での赤色巨星の分布(赤色巨星分枝)で、色の違いに着目することにより、赤色巨星の金属量が推定される。本研究で金属量が非常に少ないとされる赤色巨星は、太陽の 10 分の1程度の金属量である。惑星状星雲は赤色巨星がさらに進化し、表面から物質が放出されて周囲に星雲を作っている段階にある。