10月17日

 

 

 イギリス・バーミンガム大学のマット・ニコル氏(特別研究員)を中心とする研究グループは12日、ESOのVLT望遠鏡とNTT望遠鏡を用いて”AT2019qiz”と名付けられたブラックホールによる星の潮汐破壊現象において、太陽の100万倍もの質量をもつ超巨大ブラックホールが星を重力によって引き寄せることによってできあがるダストの流れの詳細な姿を捉えることに成功したと発表した。このダストの流れは “スパゲッティ化現象”とも呼ばれる。

 

 ブラックホールが近くにある星を飲み込むと言うと、サイエンスフィクションであるように思われるかもしれないが、実際にそのような現象が存在し、潮汐破壊現象と呼ばれる。しかしとても稀な現象であるがゆえに研究はあまり進んでいない。潮汐破壊現象は銀河中心にある超巨大ブラックホールの強大な重力によって近くにある星が引き裂かれ、希薄な物質の流れができることをいう。そしてブラックホールによって物質が吸い込まれると強い光が生じるとともに、外側に向かって秒速10,000kmにもなるジェットを噴き出すようになる。観測側からすれば、潮汐破壊現象でブラックホールによる物質の放出が生じると希薄な物質の流れ、いわゆる“スパゲッティ化現象”の様子を捉えることが難しくなる。そのため、ブラックホールによる物質の放出が生じる手前段階で観測しなければ、スパゲッティ化現象の様子を捉えることができない。

 

 研究チームは潮汐破壊現象の謎を解明すべく、ESOのVLT望遠鏡とNTT望遠鏡を用いて2019年に6ヶ月に渡って、エリダヌス座方向約2億1500万光年離れた場所にある、渦巻銀河内において起きている潮汐破壊現象の様子を観測することとした。実際に観測を行った結果、潮汐破壊現象が起きてからあまり時間が経過していない段階で、星がブラックホールに吸い込まれてダストの流れができている様子を捉えることに成功した。この観測は国際的にX-shooterやEFOSC2などの他の望遠鏡でも観測することに成功している。紫外線、X線、電波で潮汐破壊現象を観測したのは今回が初めてである。またニコル氏は今回の観測結果を解析した結果、潮汐破壊現象で引き裂かれた星は太陽と同じくらいの質量であり、潮汐破壊現象によって質量がおよそ半分になると見積もっている。

 

 今回の観測結果は超巨大ブラックホールとそのまわりでの強大な重力場による星の振る舞いを理解することに大きく貢献することとなった。引き続き、今後の10年間でブラックホールの物理学の謎を解明すべく、ELT望遠鏡による観測が続くとしている。

 

 

( C ) ESO/M. Kornmesser

潮汐破壊現象のイメージ図。ブラックホールが星を飲み込みスパゲッティ化現象が起こる。またブラックホールが星を飲み込むことでジェットが噴き出す。