10月24日

 

 

 インキー・ド・ペーター氏(カリフォルニア大学バークレー校)を中心とする研究チームは21日、木星の衛星イオをアルマ望遠鏡により観測した結果、イオの火山活動がイオの薄い大気に与える影響を直接調べることに初めて成功したと発表した。イオの大気の主成分は二酸化硫黄であるが、このうちの30~50%が火山活動から生じるものであることがわかった。今回の研究成果は火山活動のエネルギー源となる潮汐加熱やイオの内部構造を探るうえで重要な成果であるとしている。

 

 木星の衛星イオは、太陽系に数ある衛星の中でも最も火山活動が活発な衛星であり、地球の3分の1の大きさしかないが、表面には400以上の活火山が見つかっており、硫黄を含むガスを放出している。そのガスが凍りつくことで、イオの表面は黄色やオレンジ、赤色と色とりどりの模様におおわれている。イオの火山のエネルギー源は、強い潮汐力であり、イオが木星を周回する軌道は、完全な円形ではない。また月がいつも地球に同じ面を向けているように、イオも同じ面を常に木星に向けている。木星のほかの衛星であるエウロパやガニメデがイオに及ぼす重力の影響も相まってイオの内部は熱せられ、火山活動が起きていると考えられている。

 

 またイオには、地球の10億分の1ほどというごく薄い大気がある。これまでの研究から、イオの大気は火山活動に由来する二酸化硫黄が主成分であることが知られていた。しかしこれらが直接火山から噴き出したものか、あるいは地表に降り積もって凍りついた物質が太陽光に温められて昇華して大気に混じるのかはわかっていなかった。

 

 研究チームは大気の二酸化硫黄の発生源を探るべく、イオが木星の影に入るときと出るときの観測を行った。イオからすると、日食になる直前と直後ということになる。「イオが木星の影の中に入っているときは、太陽光が当たらないので非常に低温になり、二酸化硫黄はイオの表面に氷となって蓄積します。この期間、大気に含まれるのは火山から直接供給された二酸化硫黄だけです。これを観測することで、大気成分が火山活動によってどれくらい直接影響を受けているかを調べることができるのです。」と、共同研究者のスタチア・ラゼチ-クック氏(コロンビア大学)はコメントしている。実際にアルマ望遠鏡によりイオにおける日食が始まる2018年3月20日、9月2と11日にイオの観測を行った結果、3月20日と9月2日において、イオの火山から吹きあがる二酸化硫黄と一酸化硫黄のガスをとらえることに初めて成功した。この観測結果から、イオの大気の30パーセントから50パーセントは火山から直接供給されていると研究チームは見積もった。

 

 さらにアルマ望遠鏡は、火山から噴出する第3のガス、塩化カリウムも検出した。ラゼチ-クック氏は、「二酸化硫黄や一酸化硫黄が検出されない場所で、塩化カリウムが検出されました。これは、異なる火山の下にあるマグマの組成が異なっていることを示す強い証拠といえます。」とコメントしている。

 

 今回はイオの大気組成について新たな知見がもたらされたが、イオにおける未解明の謎として、研究チームはイオの下層大気の温度を挙げている。研究チームは、今後のアルマ望遠鏡による観測でその温度を測定することを目指している。ド・ペーター氏は、「イオの大気の温度を測るためには、より高い解像度が必要になります。高い解像度を実現するには長時間の観測が必要になりますが、時間が経過するとイオが数十度も自転してしまうので、その効果を補正するためのソフトウェアも必要です。私たちは、アルマ望遠鏡とジャンスキーVLAを使った木星本体の観測ですでにこの仕組みを実現しています。」と今後更なる発見がなされる可能性についてコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/JPL/Space Science Institute

アルマ望遠鏡が電波で観測した、イオの二酸化硫黄の広がり(黄色)。イオの表面画像は、ボイジャー1号とガリレオ探査機で撮影されたものである。探査機カッシーニが撮影した木星の画像も合成している。