10月31日

 

 

 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のジョン・シルバーマン准教授が代表研究者の一人を務める国際共同研究プロジェクト・ALPINE (アルパイン、*注1)の研究チームは27日、初期宇宙で成長途中にある118個の銀河を調べた結果、これらの多くが大量の塵や金属元素を含んでおり、既に回転円盤銀河となる兆候を示しているなど、従来の予想に反してはるかに銀河が成熟していたことを明らかにしたと発表した。この研究成果は銀河が速く進化してきた可能性を示すものである。118個の銀河は2018年5月8日~7月16日、2019年1月9日~1月11日までの間にろくぶんぎ座の中にあるコスモス領域と、南のチャンドラ・ディープ・フィールドと呼ばれる領域において観測されたもの。ALPINE の研究チームは今後、銀河がどのようにして急速な成長を遂げ、なぜ一部の銀河は既に回転円盤を持つ銀河となっているのかなど、今後更なる解析を行い初期宇宙における銀河進化の謎の解明に挑んでいくとしている。

 

 ほとんどの銀河は、宇宙がまだ非常に若いときに形成された。たとえば、私たちの属する天の川銀河は、136億年前に形成され始めたと考えられている。また現在138億才とされる宇宙が誕生してから10~15億年後の初期宇宙において、多くの銀河が急速に成長したと考えられている。よってこの成長期間において、大量の星、星間塵、大量の金属、渦巻き円盤構造といった現在の宇宙で見られる銀河の特徴ができあがったことになる。したがって天の川銀河のような銀河がどのように形成されたかを知るには、この初期宇宙にある銀河を研究することが重要な鍵となる。

 

 研究チームは今回、初期宇宙にある銀河を研究すべく、アルマ望遠鏡を用いて初期宇宙で成長途中にある118個の銀河を調べた。その結果、研究グループが予想していたよりもはるかに銀河が成熟していたことを明らかにした。銀河に多くの星間塵や重元素(金属元素のことであり、天文学では水素やヘリウムより重い元素と定義されている)が含まれるとき、その銀河は成熟しているとみなされる。一方で塵や重元素は、銀河内でつくられた星が死ぬ際に、副産物として銀河内に放たれる。初期宇宙の銀河は、宇宙誕生から十分な時間もないため、多くの星を作る時間がなく、そのため研究者たちはこの時代の銀河からは少量の塵や金属元素しか観測できないと考えていた。研究チームの一人であるスイス・ジュネーヴ大学の Daniel Schaerer 氏は、「これまでの研究をもとに、若い銀河には塵が少ないのではと考えていました。しかし、我々が調べた初期宇宙における銀河のうち約20% は、既に非常に多くの塵を含んでおり、生まれたばかりの星から発せられる紫外光の多くが星間塵によって吸収されていることがわかりました」とコメントしている。

 

 またDaniel Schaerer氏と共同研究した早稲田大学の札本次席研究員の発見によれば、後の時代の銀河の塵と比較して、初期宇宙における銀河の星間塵は光を吸収する性質が異なっているという証拠が示されており、銀河における塵の特性の「進化」の様子が伺えるようである。それと同時に、宇宙誕生後10~15億年の間に急速に塵が銀河を覆い隠す様子が初めて示された。このことから、この時代が初期宇宙の銀河における塵の成長にとって重要な時期であることが明らかになった。

 

 さらに研究チームが観測した銀河の多くは、回転円盤銀河となる兆候を含む多様な構造を示していることからも、比較的成熟したものと考えられる。ちなみに、この回転円盤銀河とは私たち天の川銀河のような渦巻構造を持った銀河へと後に成長する可能性がある。これまで研究者達は、一般的に初期宇宙の銀河は頻繁に衝突することから、綺麗な構造を持たずにまるで塊同士の衝突事故が起きたように見えると予想していた。しかしジョン・シルバーマン准教授は、衝突している銀河を多数見つけたものの、これらの銀河の多くは、衝突の影響を受けずに、規則正しく回転していることを見出した。これについて研究チームの一人であるデンマークにあるニールス·ボーア研究所の藤本征史研究員は、「衝突をしている銀河の中には、星で見えている銀河円盤の4倍にも至る巨大な重元素ガスが、銀河を大きく包み込みながら回転をしているものも見えてきました」とコメントしている。

 

 研究チームは今後遠方銀河についてより詳しく知るために、個々の銀河をより長時間詳細に観測する予定である。研究員の一人であるイタリア・パドヴァ大学のPaolo Cassata氏は「我々は、塵が銀河の中でどう分布しているのか、ガスがどのように銀河の中を運動しているのかを詳しく知りたいと考えています。また、塵の多い銀河とそうでない銀河を比較し、宇宙初期において銀河周囲の環境がどのように影響を及ぼすのかなども調べる必要があると考えています」と今後の抱負について述べている。

 

*注1 ALPINE は、初期宇宙における銀河を多波長で調べる初めての大規模探索プロジェクトである。銀河のサンプルデータを大量に集めるため、研究チームはアルマ望遠鏡の電波による観測データのほか、ハッブル宇宙望遠鏡、ハワイの Keck 望遠鏡、欧州南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)などによる可視光のデータ、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による赤外線のデータといった、初期宇宙における銀河の多波長データを収集している。銀河がどのように成長してきたのかを完全に把握するには、多波長での研究が必要である。

 

 

( C ) B. Saxton NRAO/AUI/NSF, ESO, NASA/STScI; NAOJ/Subaru

初期宇宙における大量の塵を含んだ回転円盤銀河の想像図。アルマ望遠鏡を使った電波観測によって赤色部分はガス、青/茶色部分は塵を表している。背景には、超大型望遠鏡(VLT)やすばる望遠鏡の可視光観測データに基づく多数の他の銀河が表現されている。

 

 

( C ) B. Saxton NRAO/AUI/NSF, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), ALPINE team

アルマ望遠鏡で観測した大量の塵を含む2つの銀河の画像。銀河は大量の塵(黄色で示す部分)を含んでおり、原始的な状態ではなく比較的成熟していると考えられる。加えて、アルマ望遠鏡は銀河における星形成の様子や星の動きを調べるため用いられるガス(赤色部分)の様子も明らかにした。