11月14日

 

 

 名古屋大学の三好由純教授を中心とする研究グループは12日、脈動オーロラ(*注1)と呼ばれるオーロラに伴って、オーロラ電子の1000倍以上もエネルギーの高いキラー電子が、宇宙空間から大気に降り込むという新しい理論を提案し、シミュレーションで実証することに成功したと発表した。このシミュレーションではJAXAの「れいめい」衛星が観測した脈動オーロラ現象とNASAの「SAMPEX」衛星が観測したキラー電子の降り込み現象を説明することができるとしている。キラー電子は人工衛星の故障を引き起こすことや、高度60km付近の中間圏のオゾンを破壊する可能性があることが知られており、キラー電子の物理的特性を知ることは、地球環境問題を考えるうえでも重要な研究テーマである。

 

 北極や南極地方に輝くオーロラは、宇宙空間から数キロ電子ボルト(約数千万度)のエネルギーを持った電子が降り込み、高さ100km付近の大気と衝突して起こる発光現象である。このオーロラの中には、数秒間に数回明滅する「脈動オーロラ」と呼ばれるタイプがあり、これまでの「れいめい」衛星や「あらせ」衛星の観測で、「宇宙のさえずり」と呼ばれる宇宙空間の特殊な電波(コーラス)(*注2)によって起こることが示されてきた。

 

 その一方で、宇宙からはしばしば、1秒以内の短い時間で、数千キロ電子ボルト(数千億度)の高いエネルギーを持った電子が降り込んでくることが知られており、マイクロバーストと呼ばれている。このマイクロバーストは、地球周辺に存在する放射線帯(ヴァン・アレン帯)に存在する電子が、大気に向かって降り込んできたものと考えられている。ヴァン・アレン帯の高いエネルギーの電子は、人工衛星を故障させる存在であり、キラー電子(killer electron)と呼ばれている。

 

 研究グループは脈動オーロラとマイクロバーストに関係性があるという仮説を立てて、コンピューターシミュレーションによって、宇宙空間の電波(コーラス)と電子との相互作用を計算することとした。その結果、脈動オーロラとマイクロバーストは、実は一連の現象であり、オーロラ電子もキラー電子もほぼ同時に地球大気へと降り込んでいることを示すこととなった。概要は以下の通りである。

 

 図1はシミュレーションによるコーラスに伴う脈動オーロラ(中央図)とキラー電子のマイクロバースト(下図)の電子の数を示した図である。一番上の図は、宇宙空間で入力した電波の特性を表しており、時間とともに周波数がどのように変化しているかを示している。この場合、3秒ごとに3本の線が見えるが、一つ一つの線がコーラスに対応している。中央と下の図は、横軸が時間、縦軸は宇宙空間から地球にやってきた電子の数を示したものである。中央の図は、脈動オーロラを起こす10キロ電子ボルトのエネルギーの電子である。10キロ電子ボルトの電子は、光の速度の約10%で動いている。2回ほど電子の数が増え、その一つ一つで電子の数が3回ほど変調されている。これは、3秒ごとにオーロラが明滅すること、また1秒間に3回ほどオーロラが瞬くことに対応する。後者の瞬きは、脈動オーロラの内部変調と呼ばれている。一番下は、エネルギーが200倍高く、ほぼ光のスピードで動いている2000キロ電子ボルトの電子である。短い間隔で3回電子の数が増え、それが合計2回起きていることがわかる。この1つ1つの電子の数が増えているのが、マイクロバーストと呼ばれる現象である。このシミュレーションでは、脈動オーロラとマイクロバーストの電子の変化を示すことができた。

 

 次にこれらの関係性がどうなっているかを調べることが重要となる。そこで研究グループは図2のような、横軸に時間、縦軸に電子のエネルギー、そして電子の量を色で示したグラフを作成した。赤いほど電子の数が多く、青いほど電子の数が少ないことを意味している。この図をみると、エネルギーが高いところから低いところまで、筋としてつながっていることがわかる。これは、脈動オーロラとマイクロバーストは、実は一連の現象であり、オーロラ電子もキラー電子もほぼ同時に地球大気へと降り込んでいることを示している。このように脈動オーロラとマイクロバーストの正体は、実は同じものであり、エネルギーが異なるだけだということがわかった。

 

 しかしどのようにして、10キロ電子ボルトと2000キロ電子ボルトというまったく異なるエネルギーのものが同時に降ってくることができるのかという疑問がここで生じた。コーラスは、赤道面では比較的低いエネルギーの電子に、緯度が高い場所では高いエネルギーの電子に影響を及ぼしやすいという性質がある。このことと、コーラスが磁力線に沿って赤道面から緯度が高いところに伝わりやすいという特性をあわせて考えて、研究グループは以下のようなシナリオを提案した(図3)。まずはコーラスが宇宙空間で生まれ、10キロ電子ボルトくらいの電子を変調させ、変調された電子が大気に降り込んで脈動オーロラを起こす。そしてコーラスが高緯度へと伝搬し、よりエネルギーが高い電子を変調させ、変調された電子が大気に降り込んでマイクロバーストが起こるといった具合である。

 

*注1 オーロラの一種で、様々な形態を示す淡い発光が数秒ごとに明滅するという特徴を持っている。また、光っている間に、1秒間に数回瞬くという特徴もある。

 

*注2 宇宙空間で発生する周波数数キロHzの電波。ちょうど可聴域に対応し音声信号に変換すると小鳥のさえずりのように聞こえることから、宇宙のさえずりと呼ばれている。

 

 

図1 ( C ) 脈動オーロラプロジェクト

シミュレーションによる脈動オーロラ(中央図)とキラー電子のマイクロバースト(下図)。上の図は、宇宙空間で電波が発生する様子を示す。電子が宇宙空間から地球にやってくるのに時間がかかる。このシミュレーションでは、電波が発生してから数百ミリ秒後に、脈動オーロラとマイクロバーストが起こることを示している。

 

 

図2 ( C ) 脈動オーロラプロジェクト

 

 

図3 ( C ) 脈動オーロラプロジェクト