11月21日

 

 

 銀河進化研究を行っているNASAの研究チーム(GALEX)は18日、ヘラクレス座方向6300光年の距離にあるTYC 2597-735-1と呼ばれる青いリング状に紫外線を発することで知られていた星雲(図1)の様々な宇宙望遠鏡による観測データを解析した結果、この星雲は実際には連星系を成すシステムにおいて太陽に似た恒星が伴星である小さな星に衝突・合体することによって生じたものであり、その残骸がコーン状に青い光を発していることが判明したと発表した。恒星が衝突・合体直後に放出された光を観測したのは今回が初めてである。また今回起こっている現象は衝突・合体が起こってから数千年たった姿を捉えたものであり、この衝突・合体の過程は数千年から、数十万年という短いタイムスケールで続くと指摘している。

 

 今回解析対象となったTYC 2597-735-1は2004年にGALEXチームの一人であるカーネギー天文台のマーク・セイバート氏が発見した天体であり、青い惑星上星雲として見えていた。その後16年の間に様々な望遠鏡によって観測が行われてきた。2006年にはアメリカ・パロマー天文台のヘール望遠鏡、ハワイのケック望遠鏡を用いて、恒星まわりの衝撃波の根拠を得るための観測が行われた。もし衝撃波が見つかれば、恒星から宇宙空間に向けてガスの塊が放出されるという仮説を支持するものとなるからである。これはどういうことかというと、研究者たちは実はTYC 2597-735-1のまわりに生存可能な惑星が存在するのではないかと考えており、こうした惑星の材料となるガスの存在が見つかれば、ハビタブルゾーンの存在可否の発見に向けて一歩前進するという狙いがあったのである。しかし2017年に恒星まわりに惑星の基となるコンパクト天体が存在しないという結論に至った。その一方でTYC 2597-735-1の構造を調査すべく、ちりでおおわれた恒星の観測を精密に行うために、NASAの赤外線天文衛星WISEによって赤外線観測を行う試みが行われた。

 

 実際に2012年にWISEによる観測が行われ、研究チームがデータを解析した結果、恒星まわりのちりの円盤を発見することに成功した。そしてこの解析結果と様々な望遠鏡による観測データを解析した結果、研究チームは以下のような結論を出した。TYC 2597-735-1の星雲は数千年前にできたものであり、太陽質量と同じくらいの質量を持つ恒星が、それよりも小さな質量(木星質量のおよそ100倍)の恒星と共通重心のまわりを回転する連星系を成していた。太陽質量を持つ星の外層が伴星に近づくと同時に伴星が太陽質量を持つ星から物質を吸い上げるようになり、それらの物質は伴星のまわりをらせんを描くように存在することとなる。このようにして衝突・合体が起こるわけであるが、残骸は伴星のまわりのガス円盤によって2分され、図2のようなコーン状に分布することとなる。残骸がガスを掃くことで衝撃波が生じ、衝撃波が残骸中の水素分子を加熱することで、図1のような青い部分で示した紫外線が生じるのである。

 

 研究チームの一人である、コロンビア大学の理論物理学者ブライアン・メッツガー氏は「私達は多くの衝突した可能性のある連星系システムを観測してきたが、これらの連星系は数百万年前に衝突したものであると考えていた。しかし衝突してからの期間の間に何が起きたかをデータから示すことがほとんどできていなかった。今回の観測結果は天の川銀河に衝突してから間もない連星系が多くある可能性があり、これからも今回の観測結果に出たような連星系が多く見つかるだろう」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) NASA/JPL-Caltech/NASA/JPL-Caltech/M. Seibert (Carnegie Institution for Science)/K. Hoadley (Caltech)/GALEX Team

ヘラクレス座方向6300後年に位置する星雲、TYC 2597-735-1。連星同士が衝突・合体した段階にあると考えられている。中心に描かれている茶色の部分が衝突によって生じた残骸である。この残骸が衝撃波を起こし、水素原子を加熱して可視光を発するが、この光はピンク色で示した部分である。ピンク色の部分で衝撃波面が形成され、そこから内側に戻っていく衝撃波によって水素分子が生み出され、紫外線が放出される。この紫外線は青色で示した部分である。

 

 

 

図2 ( C ) Mark Seibert

 

星雲はコーン状の残骸の塊を含んでいる。残骸の塊は中心の星から2方向に動いている。一方は地球に向かってきており、もう一方は反対側に進んでいる。実際にこの星雲を観測すると、これらの残骸の塊が重なったように見える。