12月5日

 

 

 ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)のミレイア・モンテス氏を中心とする国際研究チームは10月21日、地球からくじら座方向約4500万光年離れた所に位置する銀河(NGC1052-DF4)のハッブル宇宙望遠鏡によって観測されたデータを解析した結果、この銀河ではダークマター(目に見えない質量を持った物質)がほとんど存在しないことが明らかになったと発表した。2018年にもダークマターをほとんど持たない銀河(NGC1052-DF2)が発見されていた。私たちが住む天の川銀河の中心にはダークマター候補天体である超巨大ブラックホールが存在していることが明らかになっており、通常の銀河ではダークマターが存在していると考えられている。今回の解析結果は銀河の形成・進化過程で欠かせない物質であると考えられているダークマターが存在しなくとも、銀河が形成されることを示す銀河形成史上重要な研究成果であるとしている。

 

 研究チームはNGC1052-DF4銀河のハッブル宇宙望遠鏡による観測データを解析し、他の銀河から受ける潮汐破壊の効果があるかどうかを確かめることによって、ダークマターの存在可否を確かめることとした。もし他の銀河からの潮汐破壊の影響があれば、潮汐破壊される側の銀河はダークマターを持たないとされている。実際にデータを解析した結果、NGC1052-DF4は巨大質量を持つNGC1035銀河の潮汐力の影響を受けてばらばらに引き裂かれていることが確認された。他の銀河からの潮汐力の影響を受けている間は、銀河に存在する星々はその相互作用を感じ取るとともに、ダークマターが取り除かれていくと考えられている。

 

 今回の解析結果は、銀河のかすかな光をとらえることができるハッブル宇宙望遠鏡と他の様々な宇宙望遠鏡の観測データを基にして導き出された。ミレイア・モンテス氏は「NGC1052-DF4銀河が潮汐破壊の相互作用を受けていることを2つの方法を用いて導き出した。それは銀河の光と銀河に存在する球状星団の分布を捉えることである。」と今回の観測結果を導くうえで重要なポイントを説明している。球状星団はハッブル宇宙望遠鏡によって高解像度で観測することに成功したが、スペイン・カナリア諸島にあるGTC望遠鏡とIAC80望遠鏡が補完的な役割を果たした。球状星団は数十万から数百万の恒星が自己重力によって集まった天体であり、銀河を形成している。そして球状星団はコンパクトなサイズであり、強い光を放射しているため、母体である銀河を観測しやすくなる。よって球状星団は銀河のトレーサーになるのである。今回の解析結果はこの球状星団の観測データを利用して、NGC1052-DF4銀河の空間的構造を明らかにすることによって導き出された。球状星団がNGC1052-DF4から引き裂かれて一直線上に並んでいることが判明したことから、NGC1035による潮汐力が働いていることがわかった。

 

 さらに研究チームは銀河の光を解析することで、潮汐力によってNGC1052-DF4銀河から流れ出る物質の“尾”を発見することにも成功した。この“尾”を解析することによって、銀河はその形を変えておらず、尾が銀河を構成する恒星質量のわずか7%を占めているにすぎないことがわかった。このことは潮汐力の影響を受けるNGC1052-DF4では、先に優先的に恒星密度よりも低い密度を持つと考えられているダークマターが引き離されて、現在では銀河の外側にある天体が引き離されている段階であることを示している。研究チームの一人であるスペイン・カナリア天体物理研究所のイグナシオ・トルヒージョ氏は「少なくともいくつかのNGC1052-DF4の恒星は宇宙空間を漂流することになるとして、最終的にNGC1035銀河に吸収されるだろう。」と今後の展望についてコメントしている。

 

 今回の解析結果は潮汐破壊がダークマターをほとんど持たない銀河を生み出す重要な証拠となった。もし今回の解析結果がなければ、天文学者たちは重力法則の再考を迫られることとなっていた。ミレイア・モンテス氏は「今回の解析結果は、銀河が形成する過程とあらゆる宇宙モデルと共に進化する過程における知見と一致するものとなった」と今回の解析結果の意義を強調している。また研究チームは、ダークマターなしでも、原始的なガスが他の天体から受ける引力を失うことで原始的なガス同士が衝突・合体し、新しい銀河が形成されうると指摘している。

 

 

( C ) ESA/Hubble, NASA, Digitized Sky Survey 2; Acknowledgment: Davide de Martin

デジタル・スカイ・サーベイ2によって撮影されたNGC1052-DF4まわりの様子。

 

 

( C ) M. Montes et al.

IAC80望遠鏡によって撮影されたNGC1052-DF4まわりの様子。中央にNGC1052-DF4銀河があり、左側に近傍銀河であるNGC1035が存在する。