12月12日

 

 

 すばる望遠鏡ハワイ観測所のセイン・キュリー博士を中心とする国際研究チームは10日、すばる望遠鏡の最新鋭装置であるSCExAO(スケックスエーオー)とCHARIS(カリス)を使った直接撮像観測により、ぎょしゃ座方向約86光年離れた場所にある太陽系外惑星、HD 33632 Abの大気組成、位置の変化などの詳細な姿を捉えたと発表した(図1、2)。図2の天体の水蒸気や一酸化炭素分布の詳細なデータは、他の太陽系外惑星の大気構造を研究する上でも重要であるとしている。また研究チームは天体の位置変化からいくつかの楕円軌道を推定し、HD 33632 Abの質量が木星質量の約46倍(褐色矮星(*注1)に分類される)であると見積もった。中心星の年齢は 15 億年と太陽よりは多少若いものの、それ以外の特徴は我々の太陽と似ているとしている。

 

 過去にぎょしゃ座方向のSCExAO と CHARIS による太陽系外惑星探査が2018年10月に行われており、その1ヶ月後にケック望遠鏡でも観測が行われていた。その結果、恒星 (中心星)から 20 天文単位しか離れていない距離に、HD 33632 Ab が発見された。

 

 今回研究チームはHD 33632 Abの詳細な姿を捉えるべく、2020年8月31日と9月1日に追試観測を行った。その結果、HD 33632 Ab が単なる背景星ではなく、その主星に重力的に束縛された天体であることがわかり、太陽系外惑星であることが証明された。「新装置によって得られた非常にシャープな画像のおかげで、HD 33632 Ab が発見されただけでなく、天球上での正確な位置や天体の大気の性質を解明するためのスペクトルまで得られました」とセイン・キュリー博士はコメントしている。

 

 今回のHD 33632 Ab の発見には、これまでの系外惑星直接探査の問題であった検出率の低さを克服するための新しいアプローチが利用された。恒星を周回する惑星や褐色矮星は、その重力により微小ながらも中心星を周期的にふらつかせる。2013年に打ち上げられた位置天文観測衛星Gaiaによって、中心星の運動を、天球面上の位置の変化として測ることが可能になった。本研究チームは、これを利用して、軌道半径の大きな惑星や褐色矮星を伴っていそうな恒星を選び出し、直接観測による探査を進める手法を考えた。今回のHD 33632 Ab の検出はこの手法が効果的であることも証明した。

 

 研究チームはさらに、HD33632Abの質量を見積もるべく、まずはGaiaで観測された中心星の運動と、すばる望遠鏡/ケック望遠鏡で観測された HD 33632 Ab の位置の変化から、HD 33632 Ab の楕円軌道を推定することとした(図2右)。そしてこの楕円軌道をケプラーの法則にあてはめた結果、HD 33632 Ab の質量が、木星の約 46 倍であることがわかった。惑星と褐色矮星を区別する際に、通常その質量が木星の 13-14 倍以下である場合は惑星と呼ばれている。HD 33632 Ab の質量はこの境界値よりも大きく褐色矮星に分類される。軌道の離心率は低く、これまで直接撮像で発見された惑星と同様の傾向を示しているとしている。

 

 直接撮像で初めて観測された太陽系外惑星は、2008-2010年に発見されたHR 8799(*注2)と呼ばれる天体であるが、この天体を詳しく調べるためにも今回観測されたHD 33632 Ab は重要な天体になる。HR 8799の年齢は4千万年であると推定されており、それに対してHD 33632 はずっと年老いていると考えられている。一般的に若い方が温度が高いが、HD 33632は質量が大きく表面重力も大きいため、表面温度が HR 8799 の惑星とほぼ同じになるとしている。またHD 33632 Ab の質量は力学的に良く決定され、HR 8799 の惑星の質量もいろいろな手法で制限がついている。つまり、HD 33632 Ab と HR 8799 の惑星は、異なる年齢や重力のため温度が違う超低質量星 (惑星や褐色矮星) の大気の違いを理解するために最適な天体になりうる。「HR 8799 系のような系外惑星の大気はモデル化が難しいことで有名で、厚い雲のような特異な性質を持っていると考えられています。今回の新天体は、このような複雑な系外惑星の大気を理解するためにも重要です」とキュリー博士は今後の期待についてコメントしている。

 

*注1 褐色矮星は、その質量が軽すぎるために恒星になれなかった星である。

 

*注2 中心星は太陽の約1.5倍の質量を持つ若い星であり、地球からペガスス座の方向に約129光年の距離にある。

 

 

図1 ( C ) T. Currie, NAOJ/NASA-Ames

SCExAO/CHARIS による HD 33632 Ab の直接撮像画像。十字の位置にある中心星からの明るい光の影響は新装置により除去されている。その右横のbの上の点源が、発見された新天体。新天体から恒星までの距離は 20 天文単位 (太陽と地球の距離の 20 倍)で、これは太陽から天王星までの距離とほぼ同じである。

 

 

図2 ( C ) T. Currie, NAOJ/NASA-Ames, T. Brandt, UCSB

SCExAO/CHARIS で得られた HD 33632 Ab の性質。 (左)スペクトルは、天体大気中の水蒸気や一酸化炭素の吸収によって、でこぼこした形を示している。 (右)天体の位置の変化から軌道を決定するためのモデル。これによって天体の質量が定まる。複数の楕円のうち、黒の太線で描かれた楕円が最適解として得られた HD 33632 Ab の軌道であり、丸印は 10 年毎の予想位置を表している。その他の楕円は、HD 33632 Ab の質量として仮定された値により色づけされている(右側の目盛り)。