12月26日

 

 

 

 カリフォルニア大学のMichael H. Wong氏を中心とする研究チームは16日、2018年から2年間にわたるハッブル宇宙望遠鏡(NASA)による海王星の観測で、海王星北半球で発生する黒い渦の特徴が鮮明にとらえられたと発表した。大きな黒い渦は赤道に向かって進んでいくが、赤道付近でUターンし、再び北方向に向かって動き出すことがわかった。またそれと同時に分解されて小さな黒い渦を生み出している可能性があるとしている。このような現象が発見されたのは今回が初めてのことである。

 

 海王星の黒い渦は1989年にボイジャー2号宇宙望遠鏡(NASA)によって初めて発見され、同年に2個観測された。ハッブル宇宙望遠鏡は1993年以来海王星の観測を続けているが、今回2年間の観測により黒い渦が2個とらえられた。そもそも黒い渦の正体は海王星中緯度で発達した高気圧であり、赤道に向かっていくと考えられている。黒くなっているのは、まわりの雲が高気圧の上に向かっていくときに、メタンの氷結晶に姿を変えるがために、明るい雲として観測されなくなるからである。この黒い渦は海王星の自転から生じるコリオリ力によって右回転し、安定した高気圧として赤道に向かう。ところが赤道付近まで行くとコリオリ力が弱まるため、黒い渦自身が崩壊すると考えられている。しかしいくつかの他の研究チームはコンピュータシミュレーションによって、コリオリ力が働かなくとも、黒い渦が赤道まで壊されずに直進していくことを予測していた。

 

 今回ハッブル宇宙望遠鏡によって発見された大きな黒い渦は、大西洋よりも大きく広がるくらいの大きさ(約4,600マイル)であり、北半球で生まれたものであるとしている。2018年9月に黒い渦が発見されたが、その1年後、黒い渦は南に向かって赤道を目指して進んでいることが確認されて、コリオリ力が弱まって死を迎えて視界から消えることが予想された。しかし2020年8月に再び観測を行った結果、黒い渦は、突然Uターンし、再び北に向かって動き出していることがわかった。過去30年間同じような黒い渦を観測しているが、今回のように赤道付近でUターンする動きを見せたのは初めてのことである。

 

 また研究チームによると、黒い渦が単独で行動していないことが1つの謎として残されているとしている。実は2020年1月にハッブル宇宙望遠鏡は、黒い渦の近くで突如として現れた3,900マイルの広がりをもつ小さな黒い渦の姿を捉えていた(図1)。この小さな黒い渦は大きな黒い渦が分解された際にできたかけらであると考えられており、漂流していたがために一時的に観測にかかっていなかった。Michael H. Wong氏は「小さな黒い渦は大きな黒い渦の破壊過程を示している可能性があるため、今回の観測結果について大変驚いている。これまでに観測された黒い渦は単に消えてなくなっていくだけであったが、分解される様子は確認されていなかった。しかしコンピュータシミュレーションでは黒い渦が分解される様子を予測していた。」とコメントしている。

 

 小さな黒い渦が大きな黒い渦から分解されたと考えられている根拠として、大きな黒い渦がUターンを開始すると同時に、小さな黒い渦が赤道に対して同じくらいの距離に現れたという事実がある。この小さな黒い渦の位置は、コンピュータシミュレーションが大きな黒い渦が赤道付近でおきる分解現象を再現した際の位置と同じものであるとしている。また小さな黒い渦は赤道から離れた方向に向かっていることも根拠にあげられる。Michael H. Wong氏は「小さな黒い渦を初めて見たとき、大きな黒い渦が分解されてできた渦であると考えた。小さな黒い渦が赤道から離れて動いていることからしても、他の黒い渦が形成されたとは考えていない。しかし大きな渦と小さな渦の関連性が示されていないため、実際に小さな黒い渦が大きな黒い渦が分解されてできたものであるかどうかは、今後も課題として残り続ける」と今後の課題についてコメントしている。

 

 

図1 ( C ) NASA, ESA, STScI, M.H. Wong (University of California, Berkeley), and L.A. Sromovsky and P.M. Fry (University of Wisconsin-Madison)

main dark spotは大きな黒い渦(広がりが約4,600マイル)であり、transient dark spotは小さな黒い渦(広がりが約3,900マイル)である。