1月2日

 

 

 INAF(国立天体物理学研究所/イタリア)のFrancesco Ferraro氏を中心とする研究チームは2020年12月14日、ジェミニ南望遠鏡(チリ)による赤外線観測で捉えられた、天の川銀河のバルジ(中心において膨らんだ部分)付近に存在するリラー1球状星団(*注1)のデータを解析した結果、天の川銀河形成初期(120億年前)における年代と10~20億年前の年代の、2つの違う年代において形成された星が混在していることが判明したと発表した。この性質は主に同年代の星の集団が集まっていて天の川銀河のハロー(天の川銀河の外縁)に属する他の球状星団とは異なっている。今回の解析結果は球状星団、天の川銀河の形成過程を解明する上で重要な成果であるとしている。

 

 球状星団は主に天の川銀河のハローに存在し、100万個ほどの同年齢の星が集まった集団のことをいう。天の川銀河ではこれまでに150個ほどの球状星団が発見されているが、天文学者たちは最近40年間、天の川銀河中心のバルジに存在する星が集まった集団のことも球状星団と分類していた。しかしながらリラー1は、120億年前に大きな星の素となる分子雲の塊が天の川銀河の中心で衝突した際にできたかけら(研究者達は“バルジの化石のかけら”とよんでいる。)であることがわかっており、これは他の球状星団とは性質が違うものであると考えられていた。またリラー1に似た天体としてターザン5球状星団というものが存在する。ターザン5球状星団もバルジ付近に存在しているが、よく解析してみると他の球状星団とは違った特徴を持つことがここ数年で明らかになっていた。

 

 研究チームはリラー1とターザン5の(2つとも“バルジの化石のかけら”と呼ぶ)の性質を解明すべく、ジェミニ南望遠鏡による観測データとハッブル宇宙望遠鏡による観測データを組み合わせて解析を行うこととした。ジェミニ望遠鏡による観測データだけではリラー1の視線方向に存在する星がすべて重なりあい、リラー1球状星団に属する星以外の星が混在するため、ハッブル宇宙望遠鏡によるデータを組み合わせて、リラー1球状星団の星を特定するのである。実際に解析を行った結果、“バルジの化石のかけら”は天の川銀河の形成初期(およそ120億年前)の星と、これらよりもっと若い星の集団で構成されていることが判明した。研究チームの一人であるINAFのメンバーであり、ボローニャ大学教授のBarbara Lanzoni氏は、「若い星の集団はイオン化しているため、バルジの中心に集まりやすい状態となっており、古い星から放出されるガスと反応して新しい星が作られる」と説明している。またターザン5についても同様に120億年前に形成された星と、45億年前に形成された星が混在していることが判明した。これについてFrancesco Ferraro氏は「我々の今回の解析結果は明らかにリラー1が通常の球状星団ではなく、もっと複雑な天体であることを証明した。そしてリラー1は天の川銀河の形成の歴史を紐解くことができる化石である」とコメントしている。さらにINAFメンバーのEmanuele Dalessandro氏は「リラー1とターザン5は、スーパーノヴァ現象によって放出されたガスを保持するいくつかの祖先となる星を起源とする恒星システムとして、球状星団とは違う新たな恒星システムとして分類されるものであろう。ただし私たちがみているものはほんの一部分にすぎない」とコメントしている。また研究チームはこのような“バルジの化石のかけら”が天の川銀河を生み出したと指摘している。

 

*注1 リラー1は、さそり座の方向約3万光年に位置している。これは地球から約2万6000光年離れた天の川銀河の中心の、さらに3200光年向こう側にあたり、銀河中心に大量に存在する塵にじゃまされてしまうため、リラー1は可視光線ではほとんど観測できない。

 

 

( C ) ESO/S. Brunier (天の川銀河)、F. R. Ferraro / C. Pallanca (University of Bologna)(リラー1とターザン5球状星団)

天の川銀河とバルジの中心付近に存在するターザン5とリラー1球状星団の画像。