1月16日

 

 

 イギリス・ダーラム大学/フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のアナガラジア・プグリシ(Annagrazia Puglisi)氏らの研究チームは11日、アルマ望遠鏡による遠方銀河の観測によって、大量のガスを噴き出す銀河を発見したと発表した。この銀河はID2299と名付けられ、地球から93億光年離れた場所にある。観測されたデータの分析から、ID2299銀河では1年間に太陽1万個分に相当する質量のガスが流出しており、銀河に含まれる低温ガスの46%が噴き出していることが判明した。このペースであれば、ID2299銀河では星形成の燃料ともなる低温ガスがなくなることによって、星形成が早い段階で終わることになる。研究チームはこのガス流出が、銀河同士の衝突によって引き起こされたと考えており、銀河における星形成がどのようにして止まるかについての理論モデルについて再考が迫られるとしている。

 

 研究チームは、アルマ望遠鏡で100個以上の遠方銀河を観測し、そこでの低温ガスの性質を調べる研究を行っているところであった。その過程でガス放出をするID2299銀河の姿を捉えることに成功した。

 

 ID2299は活発に星を生み出している銀河であり、星形成率は私たちが住む天の川銀河の数百倍にもなるとされている。このままのペースであれば、数千万年後にはガスが枯渇し、星を作ることができなくなると考えられている。ガス流出の原因としていくつかの説が存在する。ひとつは、銀河の中心にある超巨大ブラックホールによるものである。ブラックホールに流れこむガスが作る降着円盤から非常に強い光が放射され、これによってガスが銀河外に押し出されるという考えと、ブラックホール近傍から噴き出すガスのジェットに巻き込まれる形でガスが流出するという考えがある。また、ブラックホールではなく活発な星形成活動そのものがガスを失わせるというアイデアも提案されている。大量に生まれた巨大星の光の圧力によって、あるいは巨大星が一生を終えるときの超新星爆発によってガスが銀河外に流出するというものである。

 

 しかしいずれの説でも、ID2299で観測されたような膨大な量のガス流出を説明することはできないと研究チームは考えている。そこで研究チームが注目したのは、この銀河が別の銀河との衝突を経験しているという点である。2つの銀河が衝突合体してID2299となる過程で、潮汐力によって大量のガスが銀河から流れ出したのではないかと研究チームは推測している。一般に2つの銀河が衝突すると、潮汐力によって星やガスが銀河から引き離され、長く伸びた尾のような構造を作る。今回研究チームは観測データの解析によってID2299から外に伸びるガスの構造を発見したため、ガス流出が銀河同士の衝突によって起こったことを裏付けることとなった。共同研究者のエマヌエーレ・ダディ氏(CEA)は「私たちの研究は、銀河の衝突でガス放出が引き起こされること、さらにブラックホールや星形成によるガス流出と潮汐による尾とが似た見た目を持つことを示しています」とコメントしている。このため、これまでの研究で遠方銀河に見つかっているガス流出のなかにも、実は銀河衝突による尾がまぎれている可能性がある。さらにダディ氏は「今回の結果によって、『銀河がどのように活動を終えるのか』という問題に対する理解を変革することになるかもしれません」とコメントしている。

 

 今後アルマ望遠鏡による更なる観測によってID2299銀河の詳細な姿が捉えられることで、ガス流出の力学の理解につながることが期待される。また今後運用予定のELT望遠鏡による観測で、ID2299銀河における星とガスの関係について調査が行われ、銀河進化の研究に新たな知見がもたらされるだろうとしている。

 

 

( C ) ESO/M. Kornmesser

観測をもとに描いた銀河ID2299の想像図。2つの銀河が衝突したことで、潮汐力によってガスが尾のように伸びているようすを描いている。