1月23日

 

 

 アリゾナ大学のフェイジ・ワン氏らの国際研究チームは12日、アルマ望遠鏡・マゼラン望遠鏡やその他の望遠鏡による観測データを解析した結果、観測史上最も遠くに位置するクエーサーを発見したと発表した。このクエーサーは地球からおよそ131億光年の距離にあり、その中心にある太陽の16億倍の質量を持つブラックホールをエネルギー源にして、私たちの住む天の川銀河全体の1000倍の明るさで輝いている。この発見は、宇宙誕生から約6億7000万年しか経過していなかった時代に巨大な銀河と巨大なブラックホールが既に存在していたことを示しており、これらの天体が短期間でどのように形成されたのかという天文学上の大きな謎をさらに深める発見であるとしている。

 

 一般的な銀河の中心には、非常に巨大なブラックホール(超巨大ブラックホール)が位置している。超巨大ブラックホールが周囲の物質を大量にひきつけると、ブラックホールの周囲にガスの円盤(降着円盤)が作られる。ブラックホールが引き寄せる大量の物質のエネルギーが降着円盤に持ち込まれるため、降着円盤は非常に高温になり、降着円盤は大量のエネルギーを電磁波として放出する。母体となる銀河そのものよりも銀河の中心核が明るく輝くものは「活動銀河核」と呼ばれ、その中でも最も明るい部類の天体は「クエーサー」と呼ばれている。極めて明るい天体であるため、非常に遠方の宇宙にあっても観測することができる。逆にクエーサーを発見することで、超巨大ブラックホールの形成や、宇宙の再電離の歴史をより詳細に研究することができるようになる。

 

 今回発見されたクエーサーは、J0313-1806と呼ばれている。チリにあるマゼラン望遠鏡(カーネギー研究所)によって2019年11月4日に初めて電波観測によって発見され、その後アルマ望遠鏡の観測によって、このクエーサーまでの距離(光行距離:光が進んできた道のりの長さ)を精密に測定することに成功した。J0313-1806の中心にあるブラックホールの質量は太陽の16億倍と見積もられている。ワン氏は「今回の発見は、超巨大ブラックホールが周囲の銀河に影響を与えている最も初期の証拠となります。より近い銀河の観測から、超巨大ブラックホールが銀河に影響を与えることは知られていましたが、宇宙の歴史の中でこれほど早い時期に起きていたことを捉えたのはこれが初めてです」とコメントしている。

 

 地球からJ0313-1806までの光行距離が131億光年ということは、J0313-1806が131億年前の宇宙に存在したクエーサーということになる。また131億年前に太陽の16億倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが存在していたという事実は、宇宙初期において超巨大ブラックホールが形成されたということを示唆している。研究者たちの見立てでは、ある理論モデルに沿って今回のブラックホールの成長を考えると、宇宙誕生から約1億年後に太陽の1万倍の質量を持つブラックホールの「種」が必要であるとしている。超巨大ブラックホールの形成メカニズムとしては、巨大な星が超新星爆発を起こしてブラックホールになり、これらが合体して超巨大ブラックホールになったという説、あるいは巨大星団がつぶれて一気に超巨大ブラックホールを作ったという説もありますが、そのいずれも、想定されるブラックホールの「種」を作ることは困難だと研究チームは考えている。研究チームの一員であるシャオホイ・ファン氏(アリゾナ大学)は、「この結果は、ブラックホールの種が他のメカニズムで作られた、ということを示しています。宇宙のはじめから存在していた大量の低温水素ガスの雲がつぶれることで、ブラックホールの種を直接作り出したのかもしれません」とコメントしている。

 

 またアルマ望遠鏡の観測から、超巨大ブラックホールを取り巻く銀河が、天の川銀河の200倍のペースで星を生み出していることもわかった。「この時代の銀河としては、星形成が比較的活発な銀河といえます。超巨大ブラックホールを持つ銀河が急速に成長していることがわかります」と、研究チームの一人であるジンイー・ヤン氏(アリゾナ大学)はコメントしている。

 

 さらに研究チームは、クエーサー中心部の明るさを見積もり、超巨大ブラックホールが毎年太陽25個分に相当する物質を飲み込んでいる事実を明らかにした。これに伴って解放されるエネルギーによって、銀河の中心部からは電離されたガスが激しく噴き出しているとしている。流れ出すガスの速度は、光速の20%にも及ぶ。これほど激しくガスが噴き出すと、銀河の中での星形成はやがて終焉を迎えると考えられる。ガスは星の材料だからである。ファン氏は、「銀河がある時点で星を生み出すことをやめてしまうのは、超巨大ブラックホールの影響が考えられます。もう少し時代が下ってから星形成の停止が起きることを私たちは知っていますが、どれくらい宇宙の初期からこれが起きていたのか、私たちはまだ知りません。このクエーサーは、星形成の停止が宇宙の歴史のごく初期から起きていたかもしれないことを示しているのです」とコメントしている。ガスが失われると、ブラックホールの「食べ物」もなくなってしまうため、ブラックホールの成長も止まると考えられている。

 

 研究チームは今後も地上望遠鏡や宇宙望遠鏡を使ってJ0313-1806や他のクエーサーの研究を続ける予定である。

 

 

( C ) NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva

クエーサーJ0313-1806の想像図。