1月30日

 

 

 理化学研究所の大橋聡史研究員らの国際共同研究グループは22日、アルマ望遠鏡などで成長途上にある原始星円盤(*注1)において「リング構造」を持つものが存在することが過去の観測で発見されたことに着目し、このリング構造が惑星形成の始まりに起こる塵の付着成長によって作られた可能性があることをコンピュータシミュレーションによって見出したと発表した。今回の研究成果は、恒星が作られると同時に惑星が作られることを示唆している。従来の古典的惑星形成論においては、惑星は恒星の形成後に作られると考えられていたため、従来の理論モデルに大きな疑問を提示することとなった。

 

 地球を含む太陽系のような恒星と惑星は、宇宙に漂うガス(主に水素分子)と塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することにより誕生する。恒星へとつながる成長途中の原始星の周りにはたくさんのガスや塵(星間塵)が存在し、原始星に向かって落下する。一方、落下してくるガスや塵は角運動量(*注2)を持っているため、その一部は「原始星円盤」として原始星の周りを回転し続けることになる。原始星円盤の成長が終わり、ガスや塵が留まり続けると「原始惑星系円盤」と呼ばれるようになり、星間塵は互いに付着して大きくなっていき、最終的に惑星が作られる。ここで示したように、これまでの恒星・惑星形成論においては、円盤の成長が終わり、新たに円盤に落下してくるガスや塵がなくなった後に惑星が作られると考えられていた。

 

 ところが近年の観測では、作られたばかりの若い原始星円盤において、既に環状(リング)構造やらせん状構造があることが次々と明らかになっている。このような「構造形成」は惑星形成の始まり、あるいは惑星が既に誕生している可能性を示しており、これまで考えられてきたよりもずっと早い段階で惑星形成の開始を考える必要が生じていた。そこで、国際共同研究グループは、リング構造の起源や惑星形成との関連を調べることとした。

 

 国際共同研究グループは、リング構造の形成メカニズムとして、惑星の材料となる塵の付着成長に着目した。塵のサイズが大きくなり、成長することでリング構造が作られる可能性を考え、塵同士の付着成長のシミュレーションを行って観測結果と比較することとした。原始星円盤内の塵は、ケプラー回転運動(*注3)をしているので、内側ほど物質は速く回る。そのため内側では塵同士の付着が進み、センチメートルほどのサイズまで大きくなる。一方で、外側では回転が遅く、成長には時間がかかる。

 

 実際にシミュレーションを行った結果、円盤半径による塵の付着成長時間の違いによって、成長が進んでいる内側と成長が進んでいない外側での境界(成長前線)がリングとして観測されることがわかった(図1)。時間が経つにつれて、外側でも大きな塵に成長できるため、この成長前線は徐々に外側に広がっていく。このようなリング構造が円盤に観測されれば、塵の成長という、いわば惑星形成開始の徴候を捉えたことになる。そこでこれまでアルマ望遠鏡やVLAによる電波観測でリング構造が発見されている23個の円盤に対して、リングの場所と本研究で求めた成長前線の位置を比較したところ、形成開始後100万年にも満たない非常に若い原始星円盤でのリングの場所が成長前線と一致することがわかった。特におうし座の方向、地球から450光年離れた場所にある太陽型の恒星を形成している領域 L1527にある原始星IRAS04368+2557に着目した。この原始星は、原始星自体がまだ成長途中にある一方、周囲に既に原始星円盤が作られ始めていることが分かっている。この円盤もまだ成長途中で、周囲のガスや塵が円盤へと降着している非常に若い段階であることが特徴である。ごく最近、アルマ望遠鏡とVLAによる高解像度の観測で、星間塵が出す波長0.7cmの輻射が、中心にある原始星から半径15天文単位(au)の場所で、上下両方向に塊のようなピークを持つことが発見されている(図2左)。研究グループは、このような等間隔に並ぶ塊は成長前線によるリング構造を横から見ることで説明できることを示した(図2右)。以上のことをふまえて研究チームは、惑星形成の開始時期が従来考えられているよりもずっと早い可能性を、具体的なモデルによって示した(図3)。

 

 今回の研究では、原始星円盤がリング構造を持つ可能性とその形成メカニズムを示したが、従来の惑星形成論を大きく変える可能性があるため、その一般性を明らかにすることが、今後の重要な課題であるとしている。また複数の成長途中の若い円盤をより詳細に観測し、実際に成長前線の内側で星間塵が成長して大きくなっていることを、観測からも明らかにする必要がある。そのためには、センチ波帯を中心としたさまざまな波長で高解像度の観測を行うことが必要である。また星間塵の付着成長シミュレーションも、星間塵の複雑な構造を考慮することで、より成長が促進される可能性があり、今後そのような効果を明らかにすることを研究チームは今後の目標として掲げている。

 

*注1 分子ガスと塵からなる分子雲が自己重力により収縮することで星は誕生するが、その際、大きな角運動量を持ったガスが直接中心には到達できず、原始星の周りに円盤が形成される。これを原始星円盤と呼ぶ。進化が進み、原始星への降着が弱くなった状態を原始惑星系円盤と呼び、惑星系のもとになる。

 

*注2 回転運動の向きと勢いを表す量であり、粒子の運動量と基準点(原点)からの距離の積で表される。星からの重力(中心力)は、距離や運動量を変えるが、角運動量を変化させることはできない(角運動量保存の法則)。

 

*注3 原始星の重力と回転するガスの遠心力が釣り合った運動。太陽系の惑星も同様に、太陽の周りをケプラー回転している。

 

 

図1星間塵の付着形成シミュレーションによる疑似観測画像 ( C ) 理化学研究所

原始星円盤でリング構造(明るいオレンジの部分)が観測され、リングの内側(茶色の部分)では塵が大きなサイズに成長している。一方、リングの外側(紫色の部分)では塵の成長は進んでいない。左から、円盤形成開始後6,400年、1万3,000年、2万6,000年を示しており、時間とともにリングが外側に広がっていくことが分かる。

 

 

図2 原始星円盤L1527の観測画像とシミュレーションによる原始星円盤の比較 ( C ) 理化学研究所

左:VLA望遠鏡による波長0.7cmの観測画像。星印は原始星の位置を示す。原始星の上下15auの場所に明るい塊が見られる。

右:シミュレーションによるリング構造を持つ原始星円盤の画像。横から見た観測とモデルで、同じ場所に明るい塊が見られる。

 

 

図3 惑星形成の従来モデルと今回明らかにした新たなモデル ( C ) 理化学研究所

左:惑星形成の従来考えられてきたシナリオ。原始星や原始星円盤の成長が終わった後、ガスや塵が原始惑星系円盤に長く留まり続けて、塵が付着し惑星形成を始めていく。

右:今回明らかにした新たな惑星形成シナリオ。原始星円盤がまだ成長している段階ですでに塵が大きく成長し、従来よりもずっと早く惑星形成が始まる。