2月20日

 

 

 オーフス大学、東京工業大学などの研究者からなる国際研究チームは15日、2個の惑星と伴星をもつ太陽系外惑星系K2-290をすばる望遠鏡などで観測した結果、惑星がK2-290の自転方向と逆向きに公転していることが明らかになったと発表した。伴星の重力を考慮した数値計算によると、惑星が形成された原始惑星系円盤が伴星の重力によって傾き、反転したために惑星の逆向き公転が起こった可能性があるとしている。今回の研究成果は、惑星同士の重力相互作用がなくとも、伴星の重力によって原始惑星系円盤の向きが劇的に変化するというモデルを支持するものであり、連星をなす惑星系の形成進化過程を論じる上で重要な意味を持つ。

 

 K2-290はてんびん座の方向およそ890光年先にあるF型星であり、太陽と比べて直径は約1.5倍、質量は約1.2倍である。2019年、Hjorth氏らはK2-290を周回する「K2-290 b」(公転周期約9.2日、直径は木星の約0.27倍で海王星に近い)および「K2-290 c」(同約48.4日、直径は木星とほぼ同じ)という2つの系外惑星が見つかったとする研究成果を発表していた。

 

 我々が住む太陽系の8個の惑星はほぼ同一の軌道面内を公転していて、太陽の自転と同じ向きに公転している。これは分子雲の収縮で作られた原始惑星系円盤と呼ばれるガスと塵の集まりの中で惑星が形成され、中心の恒星(中心星)とこの円盤がもともと同じ向きに回転していたためであると考えられている。ところが太陽系外に目を向けてみると、太陽系とは異なり、K2-290のように惑星の公転方向(公転軸)が中心星の自転方向(自転軸)と大きくずれている系が多数存在することが観測的に知られている。このような太陽系外惑星(系外惑星)の公転軸と中心星の自転軸のずれを生み出す機構についてはいくつかのシナリオが提唱されているが、個々の系でどういったメカニズムが作用したのかはこれまでよくわかっていなかった。

 

 研究チームは今回、K2-290太陽系外惑星系をすばる望遠鏡の高分散分光器 HDS などを用いて観測し、K2-290 を公転する2個の惑星の軌道が中心星の自転方向と逆行していることを発見した(図1、*注1)。このように中心星の自転と逆行する系外惑星系は K2-290 が初めてではないが、K2-290 の2個の惑星はほぼ同一平面内を公転しているため、この系では原始惑星系円盤が存在していた時代から円盤の回転方向と中心星の自転方向が逆行していた可能性が高いと考えられている。さらに K2-290 は、すばる望遠鏡の IRCS を用いた高解像度の撮像観測によって、惑星系から 100 AU(太陽-地球の距離の100倍)程度離れた場所に小さな恒星(伴星)が存在することが確認されていた。これらの事実を踏まえて研究チームが数値計算を実施したところ、K2-290 の惑星の逆行軌道は、惑星の形成が完了する前に伴星の重力によって原始惑星系円盤が大きく傾けられた事に起因する可能性があることがわかった(図2)。

 

 伴星の重力によって原始惑星系円盤の向きが劇的に変化するというモデルは、理論的には 10 年近く前に提唱されていたが、実際にその観測的な証拠が発見されたのは今回が初めてである。これまで、惑星の公転軸と中心星の自転軸がずれている系外惑星系は、惑星が形成された後に複数の惑星同士の重力相互作用(重力散乱等)を経験した可能性が高いと考えられていた。本研究は、伴星が存在する惑星系ではそのような過程を経ずとも大きく傾いた軌道が形作られる可能性があることを示しており、連星をなす惑星系の形成進化過程を論じる上で重要な意味を持つ。研究チームの平野照幸助教(東京工業大学/自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター/国立天文台ハワイ観測所)は、「今後、伴星を持つ惑星系のさらなる観測によって、K2-290 のように原始惑星系円盤の向きが変化する条件を詳しく調べるととともに、連星をなす惑星系の長期的な安定性を明らかにしたいです」とコメントしている。

 

*注1 観測は、すばる望遠鏡の HDS、ガリレオ国立望遠鏡(TNG)のHARPS-N、VLT 望遠鏡の ESPRESSO(いずれも高分散分光器)を用いて、2019年に行なわれた。K2-290 の2個の惑星が主星の前を横切るときに起こるロシター効果の観測から、それぞれの惑星の公転軸と中心星の自転軸のなす角度が制限された。

 

 

図1 ( C ) Christoffer Grønne/Aarhus University

K2-290 系の模式図。K2-290 の二つの惑星は、その公転の方向が中心星の自転方向と逆行している。また、2個の惑星の公転面はそろっているが、中心星の赤道面からは、ずれている。内側の惑星 (海王星くらいの大きさ) は、K2-290 の周りを約9日周期で公転し、外側の惑星 (木星くらいの大きさ) は約 48 日の周期で公転している。

 

 

図2 ( C ) Christoffer Grønne/Aarhus University

K2-290 の惑星形成時の模式図。惑星の生まれる場所となる原始惑星系円盤が中心星を取り囲んでいるが、伴星 (右上の赤い星) からの重力によって、円盤面が大きく傾き、ほぼひっくり返ったような状態になっている。この円盤から生まれた惑星は円盤の回転面にそった軌道を持つことになる。