3月13日

 

 

 名古屋大学大学院理学研究科の立原研悟准教授、福井康雄名誉教授らと、大阪府立大学の西村淳研究員、藤田真司研究員らを中心とする研究グループは10日、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡やアルマ望遠鏡などを用いて10年以上に渡り観測を続けて得られた膨大なデータを調べた研究と、 観測データを再現する数値シミュレーションなどによる理論的な研究から、星団が誕生する主要なメカニズムが宇宙空間に漂うガス雲同士の衝突であることを強く支持する新たな発見がなされたと発表した。これまでわずか数天体でしかガス雲同士の衝突による星団誕生の痕跡が知られていなかったが、近年の発見により92個にまで増えたことや、私たちの住む天の川銀河内で場所を問わず、さらには他の銀河でも普遍的に発見されつつあることが根拠であるとしている。

 

 星は宇宙空間に漂う希薄な分子からなるガス雲(*注1)が自らの重力で収縮して形成される。星にはさまざまな質量のものがあるが、 特に大質量星(太陽より8倍以上重たい星)は多くの星々とともに、巨大な星団(*注2)の中で形成されることが知られている。巨大な星団が誕生するためには、 大量のガスなどの物質を、小さな空間に短時間で詰め込む必要がある。しかしこのようなメカニズムはこれまで謎とされていた。

 

 研究グループは大質量星と巨大星団誕生のメカニズムを解明すべく、 それまで世界中の天文学者から素朴に信じられていた、「星は1つの分子ガス雲の中で完結して生まれるのだろう」という常識を疑い、 複数の分子ガス雲が巡り合い、その衝突がきっかけとなって効率良くガスが集められているのではないかという仮説に着目した。 この仮説を検証するためには、電波望遠鏡によって星団の母体となったガスを詳細に観測し、星団周辺に残ったガス雲の中で繰り広げられる複雑で多様な物理現象を考慮した上で、ガスの運動を緻密に紐解いていく必要がある。実際に研究グループは野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡やアルマ望遠鏡を用いて10 年以上に渡って分子ガスデータの観測・解析を行い、星団誕生のメカニズムが宇宙空間に漂うガス雲同士の衝突であることを発見した。1つ目の根拠として、これまでわずか数天体でしか知られていなかったガス雲同士の衝突現象が、近年の発見により92個にまで増えたことがある。 特に大規模な星団はその多くからガス雲の衝突の痕跡が見つかった。これにより大質量星を含む星団は、複数のガスが巡り合い、 衝突しなければ誕生できない可能性が高まった。2つ目に、ガス雲衝突による星団誕生の痕跡が、私たちの住む天の川銀河内で場所を問わず、さらには他の銀河でも普遍的に発見されつつあることである。

 

 研究チームは星団形成メカニズムに関する今後の研究について、2つの課題を掲げている。1つ目は100数十億年前の銀河誕生期に生まれた星団が、 どのように形成されたかを明らかにすることである。これにより、私たちの住む銀河もかつて他の銀河との衝突や合体を経験し、 それがガス雲衝突を引き起こし球状星団と呼ばれる巨大な星団を生んだという仮説を検証していく予定である。もう1つは、より小規模な衝突現象の解明である。 宇宙に存在する星のほとんどは太陽のような軽い星で、それらはより小規模なガス雲衝突が引き起こした可能性がある。 しかしこれまでに分かっているガス雲衝突の痕跡は、質量の大きな星を含む星団が誕生した場所に限定されている。研究チームは太陽系の誕生が小規模なガス雲衝突がきっかけとなったことを予想しており、このことを検証することにもつながる。

 

*注1 ほぼ真空と言われる宇宙空間にも、わずかに原子や分子などの物質が存在しており、 それらが集まり、雲(星間雲)として観測される。密度は希薄だが、質量は大きなものでは太陽の数10万倍、 大きさは数100光年にものぼり、自らの強い重力で収縮し、新たな星を作る。

 

*注2 数10個以上、多いものでは数100万個以上の星の集団。特に球状星団と呼ばれる巨大星団は、天の川銀河の周囲に150個ほど発見されており、それらを構成する星は、誕生から100億年以上経っていることが知られている。

 

 

( C ) 名古屋大学、国立天文台、NASA、JPL-Caltech、R. Hurt (SSC/Caltech)、Robert Gendler、Subaru Telescope、ESA、The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)、Hubble Collaboration、2MASS

 

ガス雲同士の衝突により誕生したと考えられる星団の位置と、代表的なガス雲の電波観測結果。右の背景は天の川銀河を円盤面の垂直方向から見た想像図で、赤い丸が天体の位置、黄色い丸が太陽系の位置を示す。わし星雲と[DBS2003]179については、可視光線で見ることができる星団とその周囲に輝く星雲の写真も併せて表示している。

 

 

( C ) 北海道大学、京都大学

数値シミュレーションで再現した 2 個の球状のガス雲が衝突する様子。左は真横から見た様子の時間進化、 右は衝突の最後の段階を、正面から見た場合の観測結果を示している。