3月20日

 

 

 ボルドー天体物理学研究所のティボー・キャバリエ氏らの研究チームは18日、アルマ望遠鏡を使って、木星の成層圏に吹く風の速度を直接測定することに初めて成功したと発表した。1994年に起きたシューメーカー・レビー第9彗星の木星衝突によってもたらされた分子のひとつであるシアン化水素(HCN)が放つ電波のドップラー効果を測定することによって、木星の極付近に時速1450kmにも及ぶ強風が吹いていたことが明らかになった。研究チームは、この現象を「太陽系でもユニークな気象怪物(meteorological beast)」と表現している。

 

 木星にはよく目立つ白と茶色の縞模様があり、そこには雲が存在している。この雲の動きを手がかりにして木星の低層大気の風の研究が天文学者によって行われてきた。その一方、木星の上層大気にも強い風が吹いていることが確認されており、木星の極域に見られるオーロラと関連があると考えられている。しかし、その間に位置する中層の大気(成層圏)の風を直接調べることはこれまでできていなかった。成層圏の風を調べるのが難しい理由は、風を見る手がかりとなる雲が成層圏には発生しないからである。

 

 今回研究チームは木星成層圏の風を調べるべく、1994年に木星に衝突したシューメーカー・レビー第9彗星によってもたらされたいくつかの分子に着目した。これらの分子は、彗星衝突以来、木星の成層圏を風に乗って移動し続けてきたと考えられており、風を調べるのに有効である。実際に彗星がもたらした分子のひとつであるシアン化水素(HCN)が放つ電波をアルマ望遠鏡で観測した結果、木星に吹く「ジェット」の速度を測ることに成功した。秒速は400m(時速に換算すると1450km)であり、木星の大赤斑の最大風速の2倍以上、地球で最も強い竜巻の風速の3倍以上に相当する。共同研究者のビラル・ベンマヒ氏(ボルドー天体物理学研究所)は「この結果は、木星のジェットが地球の4倍もの大きさ、900kmほどの高さの巨大な渦を作っていることを示しています。」とコメントしている。「ジェット」は、地球大気のジェット気流のようなもので、幅の狭い帯状に伸びる風を指す。電波を出す分子が移動している場合、その分子が放つ電波の周波数がわずかに変化する。このドップラー効果を測定することで、ジェットに流されるシアン化水素分子の移動速度を測定することができたわけである。さらに極域のジェットに加えて、木星の赤道域の成層圏にも強い風が存在することが初めて明らかになった。その風速は、時速600kmにもなる。

 

 これまでにも木星の極域に強い風が存在することは知られていたが、それは今回の研究対象となった領域よりも数百km上空でのことであった。従来の研究では、この高層大気の強風は高度が下がるほど摩擦力によって速度が低下し、成層圏では消失していると考えられてきた。今回のアルマ望遠鏡での観測結果はこれを覆すものであり、研究者を驚かせた。

 

 今回の研究結果についてキャバリエ氏は、「今回のアルマ望遠鏡の観測結果は、木星の極域の研究に新たな扉を開いたといえます。これは、数か月前には想像もつかなかったことです。」とコメントしている。また共同研究者の米国サウスウェスト研究所のトーマス・グレートハウス氏は「この結果は、木星探査機JUICEとそこに搭載されるサブミリ波観測装置によるより詳細な測定の基礎となるでしょう」と、来年打ち上げ予定の探査機への期待を述べている。またELT望遠鏡においては引き続き木星オーロラの詳細な観測が行われる予定であり、木星大気の構造について新たな知見がもたらされることが期待される。

 

 

( C ) ESO/L. Calçada & NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS

木星の極域の成層圏に吹くジェットの想像図。木星の画像は、NASAの木星探査機Junoにより撮影されたものである。