3月27日

 

 

 ESA主任研究官のTereza Jerabkova氏を中心とする研究グループは24日、太陽系から最も近い星団であるヒアデス星団をN体シミュレーションによって形成過程を再現した結果と、人工衛星GaiaEDR3およびDR2におけるデータを解析した結果を比較し、天の川銀河の強い重力作用によって2つの尾が星団から伸びている様子、いわゆる“潮汐の尾”を確認することに成功したと発表した。さらに潮汐の尾が目に見えない大質量の物質に衝突して粉々になる様子が確認されたと発表した。大質量の物質はダークマターサブハロー(ガスを含むダークマターの塊)の存在を示す証拠となりうるとしている。

 

 ヒアデス星団は太陽からおうし座方向153光年離れた場所にある散開星団であり、おうし座の頭の部分を示している。北半球、南半球から共に観測可能であり、はっきりしたV字形をしている。星団の中にある星は重力相互作用によって速度を変えており、星団から出ていく星や、星団の縁にとどまる星がある。また天の川銀河からの潮汐力によっていくつかの星が星団から抜け出して、2つの尾が形成されるのではないかということが研究者の間で予測されていた。1つの尾が星団の動く方向の前方に引っ張っているときにもう一つの尾は星団を引きずるような格好になるといった具合である。これは潮汐の尾と呼ばれており、衝突銀河において幅広い研究がなされてきたが、星団においてはこれまでに確認がなされていなかった。ヒアデス星団の形成史において6-7億年経過した星は現在では別の軌道を描いているため、もともとヒアデス星団にあった星を探し出すのは困難だからである。別の研究チームがヒアデス星団の中の星と同じ動きをする星だけを対象にして研究を行っていたが、これでは潮汐の尾を確認することはできなかった。

 

 Tereza Jerabkova氏は、ヒアデス星団が背景にある星をどのようにして取り込むのかをGaiaEDR3およびDR2のデータを基にして研究していた。その際にヒアデス星団が潮汐の尾を形成していることを発見した。潮汐の尾を発見する上で重要となるポイントは、星団の中の星と同じような動きをする星を見つけることである。Gaiaのデータは天の川銀河の10億を超える星の正確な距離と動きを検知しているため、そのような星を見つけることが可能となっている。研究チームはN体シミュレーションによって、宇宙の数億年にも及ぶ時間における星団から出ていく星の摂動を計算し、Gaiaのデータと比較することで元々ヒアデス星団の中にいた数千もの星たちで構成される集団の姿を明らかにした。その結果ヒアデス星団の潮汐の尾を確認することに成功した。これらの星は天の川銀河を横切るようにして存在し、数千光年にも及ぶ長さであることがわかった。

 

 しかしもっと驚くべきことに、潮汐の尾において星がない部分があるように見えることが判明した。Tereza氏が再度N体シミュレーションを行った結果、潮汐の尾が太陽質量の1000万倍の質量を持つ物質に衝突するとこのような結果となることを指摘している。Tereza氏は「潮汐の尾が何か大質量の物質と近接相互作用を行い、粉々になったに違いない」とコメントしている。

 

 ここで大質量の物質が何であるかという疑問が生じるが、研究チームはダークマターサブハローである可能性を指摘している。ダークマターサブハローは銀河形成史おいてその形状を作るうえで重要な役割をしたと考えられている。もし大質量の物質がダークマターサブハローであれば、天の川銀河のダークマター分布図を作成する上で大きな手助けとなる。

 

 Tereza氏は今回のヒアデス星団の研究成果を基にして、より遠くの他の星団の潮汐の尾を確認することを今後の目標に掲げている。

 

 

( C ) ESA/Gaia/DPAC, CC BY-SA 3.0 IGO; acknowledgement: S. Jordan/T. Sagrista

Gaiaデータ、N体シミュレーションの結果を基にして描き出されたヒアデス星団の姿(形成初期からいた星のメンバーを含む)がピンク色の部分で示されている。また星団周辺にある星座が緑色の線で示されている。この画像はGaia Skyを用いて作成された。