4月10日

 

 

 カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のMegan Tannockポスドク研究員を中心とする研究チームは8日、スピッツアー望遠鏡のデータを解析することにより、3つの高速回転をする褐色矮星を特定することに成功したと発表した。高速回転する褐色矮星の直径は、木星とおおよそ同じであるが、質量は40~70倍ほどであるとしている。またこれらの褐色矮星の回転速度を解析した結果、最も速いもので1時間に1回自転をしており、次に高速回転をする褐色矮星は1.4時間に1回自転をすることがわかった。なお木星は10時間に1回自転をしている。3つの高速回転をする褐色矮星は異なる物理的性質を持つにも関わらず、1時間ほどで1回自転をするという、同じような回転速度をもっていることはとても驚くべき結果であるとしており、回転速度に限界があることを示唆している。

 

 褐色矮星は質量が低いがために核融合反応が十分に進まず、恒星になれなかった天体である。褐色矮星が形成されるときには既に回転をしていると考えられており、温度が下がって収縮するときには回転速度が増すと考えられている。フィギュアスケーターがスピンを始めて、腕をたたむ動作をするときに回転速度が増すのと同じ原理である。これまでに80もの褐色矮星の回転速度が特定されており、2時間弱から数10時間ほどの回転周期をもつことが判明していた。その回転速度は200マイル/時(約322km/時)を超える。

 

 カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のMegan Tannockポスドク研究員を中心とする研究チームは今回スピッツアー望遠鏡のデータを解析することにより、3つの高速回転をする褐色矮星を特定することに成功した。高速回転する褐色矮星の直径は、木星とおおよそ同じであるが、質量は40~70倍ほどである。また褐色矮星の回転速度を求めるために、褐色矮星から放たれる光の強さの時間ごとの変化を捉えるとともに、スペクトル解析を行った。その結果、これらの褐色矮星は、最も速いもので約1時間で1回自転をしており、次に高速回転をする褐色矮星は約1.4時間に1回自転をすることがわかった。したがって褐色矮星の大きさを基にして回転速度を求めると、最も大きい褐色矮星が60マイル/秒(約100km/秒)以上で回転することになる。特にJ0348-6022(2MASSサーベイで発見された)と呼ばれる褐色矮星は木星質量の43倍であり、1.1時間に1回自転をすることが判明し、回転速度が速いために、完全な球とはならず、楕円形をした天体であることがわかった。3つの高速回転をする褐色矮星が1時間ほどで1回自転をするという、同じような回転周期をもっていることは驚くべきことであるとしている。ここで、これらの褐色矮星はそれぞれ温度が異なっており、年齢も違うにも関わらず同じような回転周期を持つのはなぜなのかという疑問が生じた。ここでヒントになるのは、一般的に星のように宇宙に存在する回転する物体は、遠心力でばらばらになる前に、形状を保とうとする力が働くことである。

 

 Megan Tannock氏は3つの高速回転をする褐色矮星が同じような回転周期を持つ理由として、物理的性質が異なる褐色矮星でも、回転速度に限界があることを指摘した。この限界を超えると褐色矮星はばらばらに分離してしまうからである。全ての回転をする物体は求心力を生み出し、速く回転すればするほど求心力が大きくなって物体は壊れずバランスを保つ。回転が大きくなり、遠心力で物体がばらばらになるほどになると、ばらばらになる前に中心にバルジと呼ばれるふくらんだ構造ができあがる、もしくは扁平した構造に変化する。ちなみにこのような構造は”oblation”と呼ばれる。

 

 天体の最大回転速度は天体の質量で決まるだけではなく、質量がどのように分布しているかにも左右される。褐色矮星はガス型惑星である木星、土星と同じようにほとんどが水素とヘリウムで構成されているが、これらの惑星よりも密度が高い。この密度の高い状態が金属と同じような熱の圧力勾配を生み出し、回転速度にも影響を与えると考えられている。

 

 研究チームは観測データの解析と理論モデルを用いて、褐色矮星がどのような振る舞いを行うかを研究しているが、最新の研究によると褐色矮星の回転周期は1時間の50~80%ほどになるほどの速いスピードになるとしている。共同研究者のMetchev氏は「褐色矮星の完全な理論モデルがまだ構築されていないため、様々な可能性が残されている。褐色矮星の回転速度の限界を決める新たな要因が見つかるかもしれない。新たな観測や理論モデルの構築が、褐色矮星の回転速度の限界を決める物理的メカニズムを明らかにするだろう。」と今後の期待についてコメントしている。

 

 

( C ) NASA/JPL-Caltech

左が今回発見された褐色矮星であるJ0348-6022。真ん中は木星、右は土星。下に記載されているのは、回転周期と質量(単位は木星質量)である。白い線で完全な球を示しているが、3天体とも回転によって扁平した構造を示している。