4月17日

 

 

 総合研究大学院大学の竹村英晃氏を中心とする国際研究グループは3月22日、オリオン大星雲を野辺山45m望遠鏡、米国のCARMA(カルマ)干渉計の一酸化炭素分子によって観測した結果、692個もの分子雲コア(以下コア)を発見したと発表した(図1)。またこれらのサンプルを用いてコアの質量関数(CMF)と星の初期質量関数(IMF)の詳細な比較を行った結果、星の初期段階にある、いわゆる星の赤ちゃんはコアに比べてこれまで考えられていたよりも重いことが明らかになった(図2)。このことは星の赤ちゃんを生み出すためには、 分子雲コアが自分の重さ以上のガスを集める必要があることを示唆している。今回の研究成果はこれまで考えられていた星の誕生モデルとは大きく異なる、 新しい星の形成過程の描像を与えた意味で重要な成果である。

 

 宇宙には分子雲と呼ばれる水素分子を主な構成要素とする冷たいガスの塊が存在している。分子雲の中の特に密度が高い領域は分子雲コアと呼ばれており、 分子雲の中に点在している。このコアから星の赤ちゃんが誕生し、やがて太陽のような恒星になると考えられている。そのためコアはまさに星の卵であり、 星の誕生を調べる上でとても重要な天体である。一方で宇宙にはすでに成長している大人の星(恒星)も存在する。太陽より重い星や軽い星があるが、 どの重さの星がどれくらいの数あるのか(星の重さ別の個体数分布)を初期質量関数と呼ぶ。大人の星の初期質量関数は銀河系内の場所によらず、 どこでもほぼ同じであることが観測的にわかっている。このような星の初期質量関数の普遍性を解明するには、 星の卵であるコアの質量関数(コアの重さ別の個体数分布)を詳しく調べ、これらの2つの質量関数を説明する星の誕生モデルを考えることが重要になる。これまで行われてきた様々な研究から、コアの質量関数と星の初期質量関数は同じ形をしていることがわかっている。 このことは星の誕生がコアの内部で完結することを示しており、これまで星の形成過程の標準モデルとして広く受け入れられてきた。 しかしこれらの描像はある程度限られた領域、かつ限られたコアの数から導かれたものであった。そのため、普遍的な星の形成過程を知るためには、 より広域かつ精細な画像を元にしたコアの質量関数を調べることが求められていた。

 

 研究チームは質量関数を用いた星の誕生モデルを考察すべく、「星のゆりかご」とも呼ばれる代表的な星形成領域、オリオン大星雲に着目することとした。オリオン大星雲(M42、NGC1976)はオリオン座にある大きくて明るい星雲である。オリオン座の三つ星の南に南北に並ぶ小三つ星(オリオンの剣に当たる)の中央に、4等星に相当する明るさで輝いており、肉眼でも見ることができる。距離は1500光年であり、実サイズ15光年程度である。

 

 研究チームは、ミリ波を観測する単一鏡としては世界最大級の野辺山45m電波望遠鏡と、アメリカのCARMA干渉計の観測データを合成することで、 オリオン大星雲におけるこれまでにないほど精密かつ広域な電波画像の作成に成功した。また電波画像ではコアのような冷たいガスの分布を直接調べることができるため、 オリオン大星雲にあるコアのリストを作成した。その結果692個もの分子雲コアを発見することに成功した。そのうちの22個は重力的に束縛されているとしている。残りの分子雲コアはまわりからのガス圧によって支えられていると考えられている。さらに研究チームはコアの質量関数と星の初期質量関数の詳細な比較を行った結果、星の赤ちゃんは星の卵(分子雲コア)に比べ、これまで考えられていたよりも重いことが明らかになったとしている。

 

 星の赤ちゃんがどのようにガスを集めるのかはまだよくわかっていない。今回の研究で新たにわかってきたのは、星の赤ちゃんは非常に大食漢で、自分の周りのガスを自分の体重ほども食べなければ、 太陽のような大人の星に成長できないということである。研究チームは今後、星が誕生する別の現場に観測対象を広げ、今回オリオン大星雲で得られた星の誕生過程の描像が他の場所でも成り立つのかを調べる予定である。

 

 

図1 ( C ) Takemura et al

国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡と米国CARMA干渉計で得られた、オリオン大星雲の精密で広域の電波画像。星の赤ちゃん(オレンジ色の点)、将来星になると思われるコア(赤い点)、星になるかどうか不明なコア(青い点)が多数リストアップされた。

 

 

図2 ( C ) Takemura et al

本研究で得られた分子雲コアの質量の分布(緑:星なし分子雲コア、赤:重力で束縛された星なしコア)と先行観測(Da Rio et al. 2012, ApJ, 748, 14D) で得られた星の質量分布(紫)を重ねた図。横軸は星や分子雲コアの質量を、縦軸は各質量区間における星や分子雲コアの数をそれぞれ示している。星なし分子雲コア(緑と赤)は0.1太陽質量で星の質量分布関数と同じようにピークがきている。星や分子雲の数について、緑と赤の線は紫色の線に満たないため、分子雲コアはまわりからのガスを集めて成長していることが示唆される。