5月15日

 

 

 Kyle Kremer氏(カリフォルニア工科大学)、Nicholas Z.Rui氏(カーネギー研究所)を中心とする国際研究チームは4月27日、NGC6397球状星団において中心にあるブラックホールが消えてなくなった場合の白色矮星の形成・進化をN体シミュレーションで解析した結果、星団の中心領域(0.07パーセク以内)に1,000個ほどの白色矮星が存在するようになるとする論文を発表した。また白色矮星同士が衝突をし、その頻度が1年、立方ギガパーセク当たり10の単位で起きると見積もった。今回の研究成果は力学的摩擦による質量の住み分け(mass segregation)効果によって白色矮星の密度分布を推定しており、ブラックホールだけでなく、白色矮星も質量の住み分け効果で密度分布を推定する方法を見つけ出したという点で画期的な成果であるとしている。

 

 一般的な星の形成は初期質量関数(IMF)に従っており、球状星団においては初期質量関数を用いれば10,000個ほどの白色矮星が存在していることになる。しかし実際の観測においては、それよりも少ない数である。その理由としては球状星団の中心に存在する連星ブラックホールの相互作用により、星団中心が温められてコア崩壊が阻害されることにより、星の形成が遅れるというシナリオが考えられている。

 

 NGC6397の中心には20個以上もの恒星質量ブラックホールが存在することがわかっている。恒星質量ブラックホールが蒸発すると、中心のコア崩壊が進み、力学的摩擦による質量の住み分け(mass segregation)によって白色矮星が集まり、高密度状態になる。そしてこの白色矮星がブラックホールに代わって中心の重力によるコア崩壊を止める働きをすると考えられている。また白色矮星はパルサー天体を生み出す材料となり、白色矮星同士の合体によってIa型スーパーノヴァ現象が発生したり、重力波の発生源となるなど様々な物理現象を起こす。

 

 研究チームは球状星団において、ブラックホールが消えてなくなった場合の白色矮星の形成、進化過程を調べるべく、CMCと呼ばれる星団のN体シミュレーションコードを用いて研究を行った。研究対象は中心にブラックホールが存在する代表的な球状星団であるNGC6397を用いることとした。その結果、NGC6397の中の白色矮星の個数、白色矮星同士の衝突頻度を推定することに成功した。白色矮星はHe(ヘリウム)型、CO(一酸化炭素)型、ONe(酸素、ネオン)型が存在し、それぞれの型の個数を推定することができた。また中心からの距離に対する中性子星、ブラックホール、白色矮星、主系列星の個数のグラフを描き出すことにも成功した。その結果、中心から0.07パーセク以内に1,000個ほどの白色矮星が存在するようになることが判明した(図1)。この結果は、星団中心に存在するブラックホール連星がコア崩壊を遅らせて、星の形成をさまたげるシナリオをうまく再現する。2/3は一酸化炭素型白色矮星であり、1/3は酸素、ネオン型白色矮星であるとしている。

 

 今回の研究では、力学的摩擦による質量の住み分けによる現象(mass segregation)によって白色矮星の分布図を描き出すことに成功した。また白色矮星の合体頻度を見積もることにも成功したが、銀河潮汐による合体の効果はシミュレーションには取り入れられていない。銀河潮汐による合体の効果を取り入れた場合、衝突頻度はO(100)(Gpc(-3乗)yr(-1乗))(1年1立法ギガパーセク当たり100の単位で衝突が起こることを示す。)になるとしており、今回のシミュレーション結果の10倍にもなることが予想されるとしている。研究チームは、この衝突の効果を取り入れたときの白色矮星の衝突頻度がどのようになるのかを今後の研究目標にあげている。

 

図1 ( C )  Kyle Kremer,Nicholas Z.Rui et al.

横軸は距離(パーセク)の対数表示、縦軸は質量(太陽質量)である。上の図がNGC6397においてブラックホールが消えてなくなった場合のシミュレーション結果であり、下の図は上の図と同じ時刻において未だにブラックホールが存在している場合のシミュレーション結果である。青い線は白色矮星、赤い線は中性子星、黒い線はブラックホール、黄色の線は主系列星の質量である。縦の黒い破線はその半径以内においてダークマター(ブラックホールなど)の質量が1,000太陽質量になる半径を表す。上の図で半径0.07パーセクにおいて白色矮星が1,000太陽質量に達しており、下の図と比べて、白色矮星が支配的になることがわかる。