5月22日

 

 

 総合研究大学院大学の津久井崇史氏(大学院生)と国立天文台/総合研究大学院大学の井口聖教授は21日、アルマ望遠鏡の観測データの解析により、遠方銀河であるBRI 1335-0417銀河が観測史上最古の渦巻き構造を持つ銀河であることが判明したと発表した。この銀河は124億年前の宇宙において発見されたが、これはビッグバンから14億年後の時代に相当する。これまで発見された渦巻銀河の最古記録は114億年前の宇宙であった。またBRI 1335-0417銀河は、私たちが住む渦巻銀河である天の川銀河の1/3ほどの大きさを持っており、小さな銀河との衝突によってガスが流れ込み、活発な星形成活動を行いながら渦巻構造を形成していると研究チームは考えている。今回の研究成果は「銀河の形はどのように決まるのか」、「銀河の渦巻き構造がいつどのようにできあがったのか」という謎を解く大きな手掛かりになるとしている。

 

 BRI 1335-0417銀河は、124億年前の宇宙に存在していたことが過去の観測から明らかになっていた。BRI 1335-0417は赤外線で極めて明るく輝く銀河であり、遠赤外線領域での明るさは太陽の10兆倍にも及ぶ。強い赤外線は、この銀河の中で非常に活発に星が生み出されていることを示しており、銀河内の塵が、大量に作られた星からの光を吸収することで温まり、強い赤外線を出すと考えられている。

 

 その一方で私たちが住む天の川銀河は、中心に巨大ブラックホールを宿し、数千億個の星、ガスと塵からなる星間物質、ダークマターなどが集まった天体である。天の川銀河の星や星間物質は、渦巻き模様の薄い円盤状に分布している。また天の川銀河の中央部には多くの星で構成された「バルジ」があり、やや膨らんだ構造をしている。宇宙には様々な形の銀河があるが、その中で渦巻銀河が占める割合は70%にも達する。そのため渦巻銀河は現代の宇宙ではありふれた存在であり、宇宙を構成する基本的な天体といえる。BRI 1335-0417も渦巻銀河である可能性が指摘されていた。

 

 宇宙は加速膨張を続けており、遠くの宇宙をみることは過去の宇宙を見ていることになる。宇宙の歴史を遡ってみると、渦巻銀河の割合は急激に低下していく。望遠鏡技術の進展のおかげで100億年より昔の宇宙にも莫大な数の銀河が見つかっているが、そのうち渦巻銀河は数個にとどまっていた。

 

 研究チームは最古の渦巻銀河を発見すべく、アルマ望遠鏡の観測データが蓄積されているデータアーカイブの中で、BRI 1335-0417銀河に着目することとした。この銀河は大量の塵が星の光をさえぎってしまうため、可視光では銀河の構造を調べることは困難である。一方でアルマ望遠鏡は、星の材料となるガス中の炭素イオンが放つ電波を観測することができるため、銀河の中心部での活発な星形成活動と銀河の構造を調べことが可能である。実際にBRI 1335-0417のデータを解析した結果、コンパクトで明るい中心部と、その両側に2本の腕を持つ渦巻き模様のような構造を発見することに成功した。これは、中心にバルジを持つ渦巻銀河の構造によく似ている。また、電波のドップラー効果をもとにしてこの銀河のガスの動きを分析したところ、天の川銀河のような渦巻銀河で見られるガスの動きのパターンとよく一致していることが明らかになった。津久井氏は「遠方銀河でこれほどはっきりとした回転する円盤と渦巻き構造、中心集中した質量構造の証拠を示すものは、どの先行文献でも見たことがなかったので興奮しました。観測データの質がよく、近くにいる銀河かと思うくらい詳細な姿を見ることができました。」とコメントしている。またBRI 1335-0417の渦巻き構造は、中心から少なくともおよそ15,000光年の距離まで広がっていることが明らかになった。天の川銀河の直径は約10万光年といわれているため、今回の観測で明らかになったBRI 1335-0417の大きさは、天の川銀河の1/3ほどとなる。また、ガスの動きから推測されたBRI 1335-0417の質量は、円盤部分とバルジ部分を含めて、太陽質量の600億倍程度となった。天の川銀河のバルジと円盤部分に存在する星と星間物質の総質量は、近年の観測によれば太陽の600億倍から700億倍程度と考えられているため質量も非常によく似ている。津久井氏は、「BRI 1335-0417が非常に遠方にある天体であり、今回の観測で銀河の本当の端まで見えているとは限りません。宇宙初期に存在した銀河としては、BRI 1335-0417はとても巨大な銀河であると言えるでしょう」とコメントしている。

 

 宇宙誕生後14億年という比較的短いタイムスケールの中で、BRI 1335-0417の渦巻き構造がどのようにしてできたのかは、大きな謎である。渦巻き構造の成因としては、3つの説が考えられている。一つ目は、この銀河が別の小さな銀河と衝突したことで、銀河円盤に波が立つようにして渦巻き構造ができたというものである。二つ目は、BRI 1335-0417と同規模の銀河とまさに衝突している最中であり、これによって銀河の形が引き延ばされているというものである。そして三つ目は、 BRI 1335-0417の中心に棒状の構造ができていて、これが回転することで銀河円盤に渦巻き構造を作ったという考え方である。どの説が有力であるかどうかを議論する上で手掛かりになるのは、 BRI 1335-0417が活発に星形成をしているという特徴を見ることである。例えば同規模の銀河と衝突したとすると、その衝突直後には爆発的に星が生成されると考えられるが、銀河円盤も大きくかき乱されるためにBRI 1335-0417が整然と回転する円盤構造を持つことと矛盾する。そこでガスの動きを分析すると、銀河の外側では星間物質が重力に対して不安定になっており、星間物質の雲が重力によって収縮して星ができやすい状況になっていることがわかる。外部から大量のガスが供給されているとこのような状況になりやすいことから、小さな銀河との衝突によってガスが流れ込んでいる可能性を示唆していると研究チームは考えている。

 

 井口氏は、「我々が住む地球がある太陽系は、天の川銀河の渦巻き構造の腕の中にあります。このような渦巻き構造が、いつどのようにして作られたのか、そのルーツを辿ることは我々の太陽系がどのような環境のもとで誕生をしたのかを探る手掛かりとなるでしょう。この研究により、さらに銀河の形成史の理解が進むことを期待します。」とコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Tsukui & S. Iguchi

アルマ望遠鏡が観測した、124億年前の銀河BRI 1335-0417。銀河に含まれる炭素イオンが放つ電波を観測した画像である。中心部の明るい部分の上下に、渦巻き構造が見えている。

 

 

( C ) 加藤恒彦, 4D2U Project, NAOJ, ALMA (ESO/NAOJ/NARO)

天の川銀河の模式図。中心部に星が集まったバルジがあり、その外側に渦巻き構造がある。